恋愛タイムカプセル
 春樹くんに許可をもらえた私はそれからごくたまに、図書館へ行くようになった。

 自宅から近い距離ではないけれど、現場が近いため立ち寄ることが多かった。

 けれど無理に彼と話そうとはせず、できるだけそっと訪れて、彼の視界に入らないように動いた。

「あなたに会いに行っているわけじゃない」とあからさまな態度だったかもしれないが、短絡的な私にはこれぐらいしか思いつかなかった。

 通い始めて数ヶ月経つ頃には、彼の野暮ったい姿も見慣れていた。

 彼は白いシャツを着て、あのダサい眼鏡をかけて、ボサボサの髪のまま仕事をしていた。あれで仕事するのはどうかと思うけど、接客しているわけじゃないから怒られないのかもしれない。


 夏に差し掛かり、徐々に暑さを感じ始めた。私も日焼けを気にして日傘を刺すようになった。

 今日もしれっと図書館へ来て涼み、しれっと見つからないように出た私は、ロビーの掲示板を見てふと立ち止まった。

 一ヶ月後にある花火大会の案内だ。この時期、近くの川で花火大会が開かれる。大きな催しだからあちこちから人が集まるのだが、そういう時に限って私は仕事が重なることが多く、最後に行ったのは専門学生の頃のことだ。

 私はスマホを取り出してスケジュールを調べた。その日は今のところ何も予定がない。仕事はあるが、アフター5は空いている。

 ────何調べてるんだろう。空いてたところで、私は誘う相手なんかいないのに。

 こういうイベントの時、恋人がいないと虚しい。予定が空いていても一緒に行く人がいないなら家で映画でも見ながらのんびり過ごそうか。虚しいけど、有意義な時間にはなるだろう。どうせやるなら花火の音が紛れるものにしなければ。
< 18 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop