恋愛タイムカプセル
その数日後のことだった。
会社で花火大会の話題が出た。なんでも、その日会社の屋上でバーベキューでもやりながら花火鑑賞をしようという話が出ているらしい。
私は楽しそうだな、と思ったが、この会社にはリア充は一人もいないのか、と別の事実に気付いてしまった。恋人がいるなら花火大会の時にわざわざ会社の催しに参加などしない。
しかし、そういう自分も彼らと同じだ。誘う相手も誘ってくれる相手もいない。
「篠ちゃんはどうする?」
日立さんに話を振られ、私は唸った。バーベキューは楽しそうだ。最近家で自炊していないし、牛肉が食べたかった。ひとりでいても虚しいだけなら会社の人たちとお酒でも飲みながら食事したほうが気が紛れる。
「駄目ですよ日立さん。朝陽は王子様が迎えに来るんですから」
横から由香が茶々を入れる。
「ちょっと、由香。何言ってるの?」
「またまた、王子様に誘われてるんじゃないの?」
由香はこのこの、と愉快そうに私を肘で小突く。
そんなわけがない。彼と一緒に花火大会なんて、天地がひっくり返ってもありえないだろう。食事は友達同士でも行ける。けど、花火大会なんて思いっきり恋人同士のイベントだ。
「そんなわけないじゃない。恋人でもないのに」
「でも、これから恋人になるかも」
「なになに? 恋話?」
由香と日立先輩がコソコソと喋る。私は頭が痛くなった。飲み会の罰ゲームで《《そういうノリ》》はもう終わったと思ったのに始末に負えない人たちだ。自分達に恋人がいないから面白がっているのだろうか。
「もう、やめてください。王子様なんていません」
「『カエルの王様』かもしれないじゃない。朝陽がキスしてあげれば目が覚めるかも」
「もう! そんなわけないでしょ!
私は呆れて自分のデスクに戻った。まったく、あの二人は人のことばかりからかって。もういい、バーベキューなんて行かない。
プンプンしてみたが、やっぱりあとで寂しい気持ちが湧き上がる。
────もし、春樹くんを誘ったら、彼はどうするんだろう。
寂しいからって誰でもいいわけじゃないけれど、そんなことを考えた。
彼はまたあの冴えない格好で来るのだろうか。一度、彼を買い物に連れて行って服をコーディネートしてあげたい。そうすれば少しはデートっぽい雰囲気になるだろう。
今まで彼にドキドキしていたのは昔の思い出のせいだ。周りのカップルに当てられて現実を思い知れば、彼のことが素敵だなんて思わなくなるだろう。
私は散々文面に悩んだ挙句、彼を花火大会に誘った。そしてその夜、彼からオーケーの返事が返ってきた。