恋愛タイムカプセル
春樹くんとなぎさちゃんが学校でベタベタすることがなかったので、私はそれほど傷付かずに済んでいた。
ただ、彼の態度が以前と何も変わらなかったことが不思議だった。
彼は以前と少しも変わらず私に話しかけた。私を避けるなんてことはしなかった。
けれどそれのせいで、私はいつまでも彼を諦めきれなかった。もう想いを伝えようとは思わなかったけれど、よく彼を目で追った。それぐらい、許して欲しかった。
それからしばらく経ったある日のことだった。
なぎさちゃんが突然、私に告白した(もちろん好きとかそういう告白じゃない)。
彼女は春樹くんと別れようと思っていることを伝えた。私は仰天した。なぜなら、彼らがうまくやっているように見えていたからだ。
二人がどんなふうにイチャついてるかは知らなかったけれど、友達から間接的にそんな話を聞いていた。私はこの穏やかなカップルの別れを信じられなかった。
「どうして?」
「なんか、思ってたのと違った」
彼女は悲しそうな顔をしていなかった。特に感情を読み取れない、色のない瞳をしていた。彼女はそれを伝えただけで、それ以上のことは言わなかった。
けれどどうして、私にそれを伝えたのだろうか。私は恋敵だったはずだ。
もしかしたら彼女の温情で頑張りなさいよ、という意味だったのかもしれない。
だとしても、その時私は彼女に怒りが湧いた。それは、彼の気持ちを踏みにじったからだ。
思っていたのと違った、なんてひどい理由だ。そんな適当な「好き」に私は負けたのか。彼は本気であなたのことが好きなのに。
その怒りを言葉にすることはなかったけれど、私は静かに、彼に同情した。私は彼からなぎさちゃんに対する思いを一言だって聞いていない。けれど、彼がオーケーしたのだ。とても好きだったんだと思う。それなのに────。
当時の私には理不尽に感じたことだったが、大人になればそれも当たり前に思うようになってきた。私はまだ青かったのだ。
そんななぎさちゃんも、彼を振るタイミングに関しては色々考えがあるのか、窺っているような様子だった。あの王子様を振るわけだから、彼女も考えることがあるのだろう。
そんな時、放課後私はたまたま用事があってグラウンドを横切った。そこで彼が練習していた。
「篠塚さん」
私は彼に声を掛けられて立ち止まった。彼が声を掛けた意味は特にないようだった。そういうことはよくあったし、いつも雑談だけで終わる。
その時も、普段と変わらない話をしていたように思う。
しかしふと、私の頭にある考えがよぎった。
────なぎさちゃんが考えてることを知ったら、彼も彼女のことが嫌いになるんじゃないか、と。
私は早く二人に別れて欲しかったのかもしれない。応援しているなどと言いながら、実はそういうことを思っていた。
「春樹くん。あのね────」
「なに?」
なにも知らない彼はいつものように穏やかな瞳をしていた。
私は、先ほどまで考えていたことをすぐに取り消した。なにを考えてるんだろう。そんなこと言ったら、彼が悲しむに決まってる。それに、告げ口なんて卑怯だ。
「どうしたの?」
「……ううん。なんでもない」
私は言わなかった。酷い人間になりたくなかった。彼だってきっと、そんなことを言う私を嫌いになるだろう。
私は思いとどまった。けれどそれから少しして、また私はなぎさちゃんから彼を振った話を聞いた。
ただ、彼の態度が以前と何も変わらなかったことが不思議だった。
彼は以前と少しも変わらず私に話しかけた。私を避けるなんてことはしなかった。
けれどそれのせいで、私はいつまでも彼を諦めきれなかった。もう想いを伝えようとは思わなかったけれど、よく彼を目で追った。それぐらい、許して欲しかった。
それからしばらく経ったある日のことだった。
なぎさちゃんが突然、私に告白した(もちろん好きとかそういう告白じゃない)。
彼女は春樹くんと別れようと思っていることを伝えた。私は仰天した。なぜなら、彼らがうまくやっているように見えていたからだ。
二人がどんなふうにイチャついてるかは知らなかったけれど、友達から間接的にそんな話を聞いていた。私はこの穏やかなカップルの別れを信じられなかった。
「どうして?」
「なんか、思ってたのと違った」
彼女は悲しそうな顔をしていなかった。特に感情を読み取れない、色のない瞳をしていた。彼女はそれを伝えただけで、それ以上のことは言わなかった。
けれどどうして、私にそれを伝えたのだろうか。私は恋敵だったはずだ。
もしかしたら彼女の温情で頑張りなさいよ、という意味だったのかもしれない。
だとしても、その時私は彼女に怒りが湧いた。それは、彼の気持ちを踏みにじったからだ。
思っていたのと違った、なんてひどい理由だ。そんな適当な「好き」に私は負けたのか。彼は本気であなたのことが好きなのに。
その怒りを言葉にすることはなかったけれど、私は静かに、彼に同情した。私は彼からなぎさちゃんに対する思いを一言だって聞いていない。けれど、彼がオーケーしたのだ。とても好きだったんだと思う。それなのに────。
当時の私には理不尽に感じたことだったが、大人になればそれも当たり前に思うようになってきた。私はまだ青かったのだ。
そんななぎさちゃんも、彼を振るタイミングに関しては色々考えがあるのか、窺っているような様子だった。あの王子様を振るわけだから、彼女も考えることがあるのだろう。
そんな時、放課後私はたまたま用事があってグラウンドを横切った。そこで彼が練習していた。
「篠塚さん」
私は彼に声を掛けられて立ち止まった。彼が声を掛けた意味は特にないようだった。そういうことはよくあったし、いつも雑談だけで終わる。
その時も、普段と変わらない話をしていたように思う。
しかしふと、私の頭にある考えがよぎった。
────なぎさちゃんが考えてることを知ったら、彼も彼女のことが嫌いになるんじゃないか、と。
私は早く二人に別れて欲しかったのかもしれない。応援しているなどと言いながら、実はそういうことを思っていた。
「春樹くん。あのね────」
「なに?」
なにも知らない彼はいつものように穏やかな瞳をしていた。
私は、先ほどまで考えていたことをすぐに取り消した。なにを考えてるんだろう。そんなこと言ったら、彼が悲しむに決まってる。それに、告げ口なんて卑怯だ。
「どうしたの?」
「……ううん。なんでもない」
私は言わなかった。酷い人間になりたくなかった。彼だってきっと、そんなことを言う私を嫌いになるだろう。
私は思いとどまった。けれどそれから少しして、また私はなぎさちゃんから彼を振った話を聞いた。