恋愛タイムカプセル
なぎさちゃんと春樹くんの別れ話は、静かな暗い夜道で行われたそうだ。
下校途中、彼は彼女をデートに誘ったらしい。そのタイミングで、彼女は彼に別れを告げた。
彼女がなぜ私にそういう話をするのか、私にはさっぱり分からなかった。彼女が優しいにしても、そんなことまで私に報告する義理はあっただろうか。
私はその話を聞かされた時、頭の中に詳細にそのシーンが思い浮かんだ。けれど彼がどんな顔をしていたのかまでは想像できなかった。
彼は、彼女の決断に一体どんな言葉を返したのだろう。優しい人だから、嫌だなんて言わなかったかもしれない。
私は悲しんでいたけど、どこかでほっとしていた。
けれど人生うまくはいかない。だからと言って私が彼にアプローチできるわけがなかった。
傷心の彼につけ込んで彼を落とす。そんな悪女みたいなことは思い付かなかった。そんなテクニック持っていたら苦労していない。
私は彼が辛いことを思い出さないよう願った。幸福であって欲しかった。
そこで、あの最悪な噂が広まったのだ。
どこで誰が言い始めたかは知らない。恐らく私と「元カノ」が同じ部活で、同じ思いを抱いていたために広まった噂だろう。
篠崎さんのせいで二人が別れたのではないか。
そんな不名誉な噂が流れて、私はとても困惑した。そして、バチが当たったのだと思った。
確かに私はそれに近いことを考えていた。二人が別れてくれたら、彼が私の方に振り向くかもしれない、なんてことも考えた。まったく綺麗な人間じゃなかっただけに、その噂は耳が痛いものだった。
なぎさちゃんが広めた噂ではないだろう。彼女はとても正直で、そんな陰湿なことはしない人物だった。多分、面白半分に彼らの別れ話を聞いた人物が勝手に想像したのだ。
私はその噂のせいで避けられたりいじめられたりすることはなかったが、姿の見えない悪意がどこかにあると思うと気分が良いものではなかった。
そして、彼がその噂を聞いて、どう思うか恐ろしかった。
もし彼がそれを聞いたら、私のことを嫌いになるだろう。以前のように話しかけてくれなくなるかもしれない。あの優しい瞳が鋭く、侮蔑に染まるかもしれない。その方が恐ろしいことだった。
けど、その方がいいのかもしれない。そうすれば彼は、自分の態度のせいで彼女が飽きてしまったなんて思わずに済むのだから。悲しみは他人に押し付けるのが楽だ。
私は春樹くんを避けるようになった。
彼に問い詰められることが怖かったし、私たちが関わっていることで噂がひどくなるのを防ぎたかった。
私の恋は終わった。いけない恋をしたのかもしれない。
それから彼がどうなったのか、私は知ろうともしなかったし、知りたくもなかった。
この世界のどこかで彼が幸せに生きていればそれでよかった。
けれど私は彼が褒めてくれた絵を描くことをやめなかったし、本を読むことも好きだった。どれは心のどこかで、彼とつながっていた時の温かさを思い出したいからだった。
もう会うこともない。あの時の真実なんて誰も知らないのだ。
下校途中、彼は彼女をデートに誘ったらしい。そのタイミングで、彼女は彼に別れを告げた。
彼女がなぜ私にそういう話をするのか、私にはさっぱり分からなかった。彼女が優しいにしても、そんなことまで私に報告する義理はあっただろうか。
私はその話を聞かされた時、頭の中に詳細にそのシーンが思い浮かんだ。けれど彼がどんな顔をしていたのかまでは想像できなかった。
彼は、彼女の決断に一体どんな言葉を返したのだろう。優しい人だから、嫌だなんて言わなかったかもしれない。
私は悲しんでいたけど、どこかでほっとしていた。
けれど人生うまくはいかない。だからと言って私が彼にアプローチできるわけがなかった。
傷心の彼につけ込んで彼を落とす。そんな悪女みたいなことは思い付かなかった。そんなテクニック持っていたら苦労していない。
私は彼が辛いことを思い出さないよう願った。幸福であって欲しかった。
そこで、あの最悪な噂が広まったのだ。
どこで誰が言い始めたかは知らない。恐らく私と「元カノ」が同じ部活で、同じ思いを抱いていたために広まった噂だろう。
篠崎さんのせいで二人が別れたのではないか。
そんな不名誉な噂が流れて、私はとても困惑した。そして、バチが当たったのだと思った。
確かに私はそれに近いことを考えていた。二人が別れてくれたら、彼が私の方に振り向くかもしれない、なんてことも考えた。まったく綺麗な人間じゃなかっただけに、その噂は耳が痛いものだった。
なぎさちゃんが広めた噂ではないだろう。彼女はとても正直で、そんな陰湿なことはしない人物だった。多分、面白半分に彼らの別れ話を聞いた人物が勝手に想像したのだ。
私はその噂のせいで避けられたりいじめられたりすることはなかったが、姿の見えない悪意がどこかにあると思うと気分が良いものではなかった。
そして、彼がその噂を聞いて、どう思うか恐ろしかった。
もし彼がそれを聞いたら、私のことを嫌いになるだろう。以前のように話しかけてくれなくなるかもしれない。あの優しい瞳が鋭く、侮蔑に染まるかもしれない。その方が恐ろしいことだった。
けど、その方がいいのかもしれない。そうすれば彼は、自分の態度のせいで彼女が飽きてしまったなんて思わずに済むのだから。悲しみは他人に押し付けるのが楽だ。
私は春樹くんを避けるようになった。
彼に問い詰められることが怖かったし、私たちが関わっていることで噂がひどくなるのを防ぎたかった。
私の恋は終わった。いけない恋をしたのかもしれない。
それから彼がどうなったのか、私は知ろうともしなかったし、知りたくもなかった。
この世界のどこかで彼が幸せに生きていればそれでよかった。
けれど私は彼が褒めてくれた絵を描くことをやめなかったし、本を読むことも好きだった。どれは心のどこかで、彼とつながっていた時の温かさを思い出したいからだった。
もう会うこともない。あの時の真実なんて誰も知らないのだ。