恋愛タイムカプセル
episode 7.王子様は優しくない
紙芝居の作成は思ったよりも大変だった。なんせ、普段やっている仕事とは描き方が違う。私は絵具なんてものを久しぶりに棚から引っ張りだし、毎日コツコツと絵を描き続けた。
絵は二週間ほどで完成した。早速それを持って図書館に行くと、春樹くんは少し驚いていた。私が大きな画用紙が入るようなケースを持っていたからだろう。
本当はもっと遅い完成予定だった。ただ、描いていると楽しくなってつい筆が進んでしまっただけだ。
「早いね」
私はだよね、とちょっと自分に呆れた。まるで彼に会いたいから早く書き上げたみたいだ。
「ごめん、途中で見せるべきだったかな」
「いや、大丈夫。ちょっと見せてもらっていいかな」
私はケースから紙芝居を取り出して彼に渡した。画用紙は四つ切りサイズ。絵はアクリル絵具と色鉛筆を使って仕上げている。子供たちが楽しめるように、カラフルな色合いで描いてみた。
彼は一枚一枚ゆっくりとそれをめくりながら確認していった。私はドキドキしながらその様子を見守った。まるで試験の合格発表を待ってるみたいな気分だ。
「うん、やっぱり篠塚さんうまいね」
私がまじまじと様子を伺っていると、それに気付いた彼は困ったように視線を下げた。
「ごめん。語彙力なくて」
「ううん……よかった。これでなんとかなりそう?」
「うん。助かるよ。これで俺の下手な絵でブーイングされることもなさそうだし」
「作画、北原春樹にしても大丈夫だよ」
私はクスクスと笑った。
「あ、どれぐらいかかった?」
材料の話だろうか。以前彼は請求できるようなことを言っていた。
「それ、プライスレスなの。全部うちにある画材で作ったから」
彼はそうか、と言いながら困った顔をした。画用紙も絵具も原価なんて知れているから請求するつもりはない。それにこれは仕事ではないし、お金を取るつもりなんてサラサラなかった。
「じゃあ、ご飯でもおごるよ。せっかく描いてくれたし、お礼したいから」
「いいの?」
私は弾む声に後から気付き、申し訳なさそうな顔をして誤魔化した。
「ただ働きさせたみたいなのは嫌だから」
デートの理由としてはあまり色気のないものだが、それでも十分嬉しい。彼からデートに──いや、食事に誘ってくれたのだから。
「また連絡する。これはこのまま俺が預かっても──」
「北原くん」
彼の背後から人の声がした。私は彼とともに彼の後ろから近付いてくるそれに視線を向ける。
この間の女性だ。確か、鈴野といっただろうか。
「あ、ごめん。話中だったんだ」
彼女は私のことが見えていなかったのだろうか。彼の姿がかぶって見えていなかったのかもしれない。
彼は「ごめん、じゃあ。これは預かるから」と言って紙芝居と一緒に彼女のもとへ行ってしまった。
私はなんだかショックを受けて図書館を出た。
仕事中なのだ。仕方ない。だけど、彼が私より彼女を優先にしたことでなんだか嫌な気分になった。まだ彼女にもなっていないくせにすごい独占欲だ。
私はデートの約束もしたんだから──。なんて、自分を慰めるしかできなかった。
絵は二週間ほどで完成した。早速それを持って図書館に行くと、春樹くんは少し驚いていた。私が大きな画用紙が入るようなケースを持っていたからだろう。
本当はもっと遅い完成予定だった。ただ、描いていると楽しくなってつい筆が進んでしまっただけだ。
「早いね」
私はだよね、とちょっと自分に呆れた。まるで彼に会いたいから早く書き上げたみたいだ。
「ごめん、途中で見せるべきだったかな」
「いや、大丈夫。ちょっと見せてもらっていいかな」
私はケースから紙芝居を取り出して彼に渡した。画用紙は四つ切りサイズ。絵はアクリル絵具と色鉛筆を使って仕上げている。子供たちが楽しめるように、カラフルな色合いで描いてみた。
彼は一枚一枚ゆっくりとそれをめくりながら確認していった。私はドキドキしながらその様子を見守った。まるで試験の合格発表を待ってるみたいな気分だ。
「うん、やっぱり篠塚さんうまいね」
私がまじまじと様子を伺っていると、それに気付いた彼は困ったように視線を下げた。
「ごめん。語彙力なくて」
「ううん……よかった。これでなんとかなりそう?」
「うん。助かるよ。これで俺の下手な絵でブーイングされることもなさそうだし」
「作画、北原春樹にしても大丈夫だよ」
私はクスクスと笑った。
「あ、どれぐらいかかった?」
材料の話だろうか。以前彼は請求できるようなことを言っていた。
「それ、プライスレスなの。全部うちにある画材で作ったから」
彼はそうか、と言いながら困った顔をした。画用紙も絵具も原価なんて知れているから請求するつもりはない。それにこれは仕事ではないし、お金を取るつもりなんてサラサラなかった。
「じゃあ、ご飯でもおごるよ。せっかく描いてくれたし、お礼したいから」
「いいの?」
私は弾む声に後から気付き、申し訳なさそうな顔をして誤魔化した。
「ただ働きさせたみたいなのは嫌だから」
デートの理由としてはあまり色気のないものだが、それでも十分嬉しい。彼からデートに──いや、食事に誘ってくれたのだから。
「また連絡する。これはこのまま俺が預かっても──」
「北原くん」
彼の背後から人の声がした。私は彼とともに彼の後ろから近付いてくるそれに視線を向ける。
この間の女性だ。確か、鈴野といっただろうか。
「あ、ごめん。話中だったんだ」
彼女は私のことが見えていなかったのだろうか。彼の姿がかぶって見えていなかったのかもしれない。
彼は「ごめん、じゃあ。これは預かるから」と言って紙芝居と一緒に彼女のもとへ行ってしまった。
私はなんだかショックを受けて図書館を出た。
仕事中なのだ。仕方ない。だけど、彼が私より彼女を優先にしたことでなんだか嫌な気分になった。まだ彼女にもなっていないくせにすごい独占欲だ。
私はデートの約束もしたんだから──。なんて、自分を慰めるしかできなかった。