恋愛タイムカプセル
その翌日、春樹くんから連絡が来た。今度は残念ながら夜ではなくて昼だ。彼のことだから特に深い意味はないと思う。
私は約束の日までいろんな想像をした。それは楽しいことも、楽しくないことも。
あの女性が彼にとってどんな人物なのか邪推して嫌な想像をしたり、彼が誘ってくれた意味を考えたり、心の中は忙しない毎日だった。
外に出ると、夏の暑さの中に爽やかな風を感じた。
近頃、残暑はまだ続くものの、いっとき感じていた猛烈な暑さはややマシになっていた。
私は相変わらず毎日日傘をさしているけれど、今日ばかりはそれをやめた。彼は日傘なんて差さないのに一人だけ持っていたらなんだか格好悪いからだ。それに、傘の分だけ彼との距離が離れてしまう。
駅の改札口前にあるセブンイレブンで待つこと約十分。
私の目にあの野暮ったい髪型と眼鏡の春樹くんが映る。彼は今日も同じだ。もうさすがにガッカリはしなかった。
私たちはどの店に入ろうかとあちこち歩いた。土日だから飲食店のほとんどは混雑していた。
だからお洒落さとか美味しいかはあまり関係なく、なんとなく雰囲気の良さそうな空いている店に入った。
それぞれランチセットを頼み、当たり障りない雑談を交わす。私たちがこうして食事するのは三回目だが、二人の仲にあまり進歩はない。
「お話会のことだけど、あれは春樹くんが読むの?」
尋ねると、彼はまさか、と首を横に振った。
「俺みたいなのが読んでも子供は面白がらないよ。読むのは鈴野さん──えっと、この間会った人」
私はすぐにあの女性を思い浮かべた。彼女が読むのか。となんとなく嫌な気分になる。彼女は元気で溌剌としていて、絵本の読み聞かせには向いているかもしれない。
なんとなく、なぎさちゃんに似てるのは気のせいだろうか。
また嫌な想像をしてしまう。嫉妬している自分が嫌になる。
「篠塚さんもし時間があったら、聞きにきて」
「え? 私?」
「せっかく描いてもらったから。大人は面白くないかもしれないけど」
「……ううん、分かった。時間があったら、聞きに行ってみる。それにしても図書館っていろんなことやってるんだね」
「まあ最近は地域の人が交流する場になってるかな。ああ、月に一回絵画教室っていうのもあるんだ。篠塚さんも参加してみたらどうかな」
「へえ、絵画教室もあるんだ」
「うん。でも、篠塚さんぐらいのレベルの人には退屈かもしれない」
「そんなことないよ。私だって本気の絵ばっかり書いてるわけじゃないもの」
「結構前に、なんかの花描いてたよね。あれは、すごく上手かったよ」
「花────」
私は、その記憶と思しきものを頭の中から引っ張り出した。
忘れもしない。それは私が彼を知った瞬間の出来事だ。それ以外はない。それしかない。
彼も覚えているのだ。私のように、あの出来事を覚えている。私は得体のしれない高揚感で胸が一杯になった。
私は約束の日までいろんな想像をした。それは楽しいことも、楽しくないことも。
あの女性が彼にとってどんな人物なのか邪推して嫌な想像をしたり、彼が誘ってくれた意味を考えたり、心の中は忙しない毎日だった。
外に出ると、夏の暑さの中に爽やかな風を感じた。
近頃、残暑はまだ続くものの、いっとき感じていた猛烈な暑さはややマシになっていた。
私は相変わらず毎日日傘をさしているけれど、今日ばかりはそれをやめた。彼は日傘なんて差さないのに一人だけ持っていたらなんだか格好悪いからだ。それに、傘の分だけ彼との距離が離れてしまう。
駅の改札口前にあるセブンイレブンで待つこと約十分。
私の目にあの野暮ったい髪型と眼鏡の春樹くんが映る。彼は今日も同じだ。もうさすがにガッカリはしなかった。
私たちはどの店に入ろうかとあちこち歩いた。土日だから飲食店のほとんどは混雑していた。
だからお洒落さとか美味しいかはあまり関係なく、なんとなく雰囲気の良さそうな空いている店に入った。
それぞれランチセットを頼み、当たり障りない雑談を交わす。私たちがこうして食事するのは三回目だが、二人の仲にあまり進歩はない。
「お話会のことだけど、あれは春樹くんが読むの?」
尋ねると、彼はまさか、と首を横に振った。
「俺みたいなのが読んでも子供は面白がらないよ。読むのは鈴野さん──えっと、この間会った人」
私はすぐにあの女性を思い浮かべた。彼女が読むのか。となんとなく嫌な気分になる。彼女は元気で溌剌としていて、絵本の読み聞かせには向いているかもしれない。
なんとなく、なぎさちゃんに似てるのは気のせいだろうか。
また嫌な想像をしてしまう。嫉妬している自分が嫌になる。
「篠塚さんもし時間があったら、聞きにきて」
「え? 私?」
「せっかく描いてもらったから。大人は面白くないかもしれないけど」
「……ううん、分かった。時間があったら、聞きに行ってみる。それにしても図書館っていろんなことやってるんだね」
「まあ最近は地域の人が交流する場になってるかな。ああ、月に一回絵画教室っていうのもあるんだ。篠塚さんも参加してみたらどうかな」
「へえ、絵画教室もあるんだ」
「うん。でも、篠塚さんぐらいのレベルの人には退屈かもしれない」
「そんなことないよ。私だって本気の絵ばっかり書いてるわけじゃないもの」
「結構前に、なんかの花描いてたよね。あれは、すごく上手かったよ」
「花────」
私は、その記憶と思しきものを頭の中から引っ張り出した。
忘れもしない。それは私が彼を知った瞬間の出来事だ。それ以外はない。それしかない。
彼も覚えているのだ。私のように、あの出来事を覚えている。私は得体のしれない高揚感で胸が一杯になった。