恋愛タイムカプセル
 仕事終わり、私は近所のカフェに寄って大好きなコーヒーフロートをテイクアウトした。

 普段は外でしか飲まないけれど、今日はちょっと特別にしたかった。あと、頭に糖分を補給したかったのもある。

 部屋に帰るなり、私は鞄からスマホを取り出した。そう、これから大事なやりとりをしなければならない。

 彼から来たメッセージと睨めっこすること数分、私はようやく文字を打ち込み始めた。

 まずは当たり障りない日常会話からすべきだろうか。それとも用件だけを伝えた方がいいだろうか。

 ああ、こんな一文だけで一体何分悩むつもりだろう。あの頃とは変わったんだから、もっとシャキッとしなきゃ。

 私は社交的に、明るく、素敵な女の子を装った。

『返事してくれてありがとう! 私は土日祝日が空いてるんだけど、春樹くんはどうかな?』

 彼も付けなかったから、絵文字は付けなかった。あまり軽いノリにすると何だこいつって思われそうなのが嫌だった。けれど気持ち的にはニコちゃんマークをたくさんつけたい気分だ。

 ふう、吐息をつき、すっかりソフトクリームが溶けたコーヒーフロートに口をつける。

 罰ゲームに当たった時は最悪だと思ったけれど、結果的には良かったのかもしれない。あの憧れの王子様に会うことができるのだから。

 彼が返事をくれた。ご飯にOKしてくれたということは、彼には今彼女がいないのだろうか。それならもしかしたら、自分にもチャンスがないだろうか。

「────なんてね。そんなわけないか。ダメダメ、期待しすぎるとろくなことがないんだから」

 なんて、自分に言い訳してみたけれど、やっぱり期待してしまう。

 だって、私にとって彼は夢を与えてくれた憧れの人なのだから。
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