恋愛タイムカプセル
『公民館前』と書かれた看板は色が剥げてネジの部分が錆び付いていた。
懐かしい。約十数年ぶりに見る看板だ。
懐かしさのあまりついキョロキョロと辺りを見回してしまう。久しぶりに来たからかあの頃に戻ったみたいだった。
待ち合わせのバス停は相変わらず、中高生のたまり場になっている。公民館の端っこの、使わなくなっていた場所を改装して出来たこのバス停は、私が小学生だった当時はピカピカだったけれど、今はもうすっかり寂れて見えた。
あれから何年も経っているのに、景色はそれほど変わっていなかった。私が絵画教室でよく通っていた公民館の横には春樹くんが通っていた図書館があり、そのすぐ近くに市役所がある。何も変わっていない。
待ち人を探しながら小さく円を描くようにグルグルと歩き、景色を眺める。
「朝陽」
名前を呼ばれ、私は笑顔で振り返った。そこにはいつもの冴えない姿の彼がいる。付き合っても彼は変わらない。
「懐かしくてつい見てたんだ。すごく久しぶりだね」
「俺も、結構久しぶりだな。中学校の時ぐらいから来てなかったかも」
彼は当たり前のように私の隣に来て手を繋いだ。繋いだといっても、彼の手が私の手の先を握っているだけだけど。それでも嬉しい。
「どこに行く?」
私はワクワクしながら尋ねた。これから冒険に行くような気分だった。
「ちょっとこの辺うろうろしていいかな」
「もちろん」
当時はこの辺りをよく歩いたものだ。絵画教室では写生もやっていたから、この辺りの景色をたくさん描いた。
あの頃より色褪せて見えるのは私が大人になったからだろうか。それとも秋になったからだろうか。年月が経ったから仕方ないことなのかもしれない。
私は彼と歩調を合わせて歩いた。彼は何処かに向かっているようだった。
やがて公民館のすぐ近くにある大きな建物────水道局だろうか。そのすぐそばまで来て建物を見上げた。
「────やっぱり、あの時とは変わってるか」
そう言った彼はなんだか寂しそうな顔をしていた。この場所に何か思い出があったのだろうか。
一見、普通の建物だ。建物の外装は所々ハゲていて、壁を這うパイプ管もすっかり錆び付いている。
「ここに何かあったの?」
「ここに木があったんだ」
「木? なんの木?」
「わからない。クリスマスツリーみたいな形の木だった」
「うーん……じゃあ針葉樹なんだろうね」
彼はその木に思い出があるのだろうか。不意に彼の方を向くと、彼はじっと私のことを見つめていた。そしてやや間を開けて、「ごめん、なんでもないよ」と、視線を外した。
「別のところに行こうか」
「いいの?」
彼はうん、と返事したものの、なんだかまだその場に未練があるように思えた。
懐かしい。約十数年ぶりに見る看板だ。
懐かしさのあまりついキョロキョロと辺りを見回してしまう。久しぶりに来たからかあの頃に戻ったみたいだった。
待ち合わせのバス停は相変わらず、中高生のたまり場になっている。公民館の端っこの、使わなくなっていた場所を改装して出来たこのバス停は、私が小学生だった当時はピカピカだったけれど、今はもうすっかり寂れて見えた。
あれから何年も経っているのに、景色はそれほど変わっていなかった。私が絵画教室でよく通っていた公民館の横には春樹くんが通っていた図書館があり、そのすぐ近くに市役所がある。何も変わっていない。
待ち人を探しながら小さく円を描くようにグルグルと歩き、景色を眺める。
「朝陽」
名前を呼ばれ、私は笑顔で振り返った。そこにはいつもの冴えない姿の彼がいる。付き合っても彼は変わらない。
「懐かしくてつい見てたんだ。すごく久しぶりだね」
「俺も、結構久しぶりだな。中学校の時ぐらいから来てなかったかも」
彼は当たり前のように私の隣に来て手を繋いだ。繋いだといっても、彼の手が私の手の先を握っているだけだけど。それでも嬉しい。
「どこに行く?」
私はワクワクしながら尋ねた。これから冒険に行くような気分だった。
「ちょっとこの辺うろうろしていいかな」
「もちろん」
当時はこの辺りをよく歩いたものだ。絵画教室では写生もやっていたから、この辺りの景色をたくさん描いた。
あの頃より色褪せて見えるのは私が大人になったからだろうか。それとも秋になったからだろうか。年月が経ったから仕方ないことなのかもしれない。
私は彼と歩調を合わせて歩いた。彼は何処かに向かっているようだった。
やがて公民館のすぐ近くにある大きな建物────水道局だろうか。そのすぐそばまで来て建物を見上げた。
「────やっぱり、あの時とは変わってるか」
そう言った彼はなんだか寂しそうな顔をしていた。この場所に何か思い出があったのだろうか。
一見、普通の建物だ。建物の外装は所々ハゲていて、壁を這うパイプ管もすっかり錆び付いている。
「ここに何かあったの?」
「ここに木があったんだ」
「木? なんの木?」
「わからない。クリスマスツリーみたいな形の木だった」
「うーん……じゃあ針葉樹なんだろうね」
彼はその木に思い出があるのだろうか。不意に彼の方を向くと、彼はじっと私のことを見つめていた。そしてやや間を開けて、「ごめん、なんでもないよ」と、視線を外した。
「別のところに行こうか」
「いいの?」
彼はうん、と返事したものの、なんだかまだその場に未練があるように思えた。