恋愛タイムカプセル
本社で二時間ほどの打ち合わせをして、今日のスケジュールは終わった。
まだかなり早い時間帯だったが、その後の予定は明日にアポをとっているため今日はもう自由だ。
最後に今日した話を詰めようと駅前のカフェに入り、そのあとはホテルに戻った。
平日のスケジュールならこんなに優雅ではないが、今日は本来休日で出張だ。だから普段のように時間に厳しくはない。
けれどホテルでゴロゴロするのも退屈なので、出掛けることにした。
だが、掛川は遊び歩くような場所ではなかった。何もないというほどではないが、普段暮らしている場所に比べたら何もない。観光できる場所も、夕方近い時刻ではほとんどが閉まっているため入ってもすぐに出なければならない。
ホテルの前でもだもだしていると、エントランスから出てきた結城社長とバッタリ会った。
「社長、お出掛けですか?」
「じっとしてるのが苦手なタチなんでな。何処か行こうかと思ったんだが……なにせこの時間だ」
「ですよね……」
「篠塚も出掛けるのか?」
「そうしたかったんですけど、行く場所がなくって……桑原さんは何してるんでしょうね」
「ああ、なんか友達がこっちにいるらしいから会いに行くって言ってたな」
「いいですね」
「暇なら、少し早いが飯でも行くか? この辺ならもう開いてるだろう」
「そうしましょうか。じゃあ、ご一緒させてもらいます」
と、思ったが。私が思っているよりも飲食店はなかった。結城社長曰く、二十年前よりマシになったそうだ。昔はもっと廃れていたのかもしれない。
駅前にはラーメン屋や定食屋など、女性向けの店が少ない。完全にアフター5の男性が寄りそうな店ばかりだった。
気温がやや冷えていたのでラーメンが食べたいと意見を出したものの、ラーメンでは時間は潰せないと言われた。結局、私達は居酒屋に入ることになった。
その店にはカクテルだとかワインなんてものはなかった。私はお酒がもともと得意でないため、気分は盛り上がらないがウーロン茶にした。つまみを二、三品頼み、ちびちび片付けながら時間を潰そうという戦法だ。
「それにしても、社長って本当顔が広いですよね。今日の仕事もそうですけど、一体何処で知り合うんです?」
ゴマを擦っているわけではない。本心からの言葉だった。
私達の業界は世間一般が思うほどおしゃれではないし、楽でもない。特に私のように個人事務所に入る人間は修行のようなつもりで仕事している。現場の人間は男ばかりで縦社会だ。結城社長のように若くして成り上がるのは難しい。
「昔世話になってた人がよく飲みに連れてってくれてな。そのおかげでいろんなところにコネが出来たんだ」
「いい人だったんですね」
「まあ結果的には有り難かったが……よくつぶれるまで飲まされたな。目が覚めたら路上で寝てたこともある」
「ええっ」
「しかも財布スられてたんだ。まあ、篠塚も気を付けろよ」
「わ、私は潰れるまで飲みませんから……」