恋愛タイムカプセル
 お腹も少し膨れてきた頃、私のスマホにメッセージが届いた。画面に表示されたその文字を見て、私は思わず笑顔になってしまう。

「お、噂の男か?」

「まあ、そんなところです」

「うまくいって何よりだ。しかし、男と二人で飲んでたら怒るんじゃないのか?」

「いえ、ヤキモチとか妬くようなタイプの人じゃないので」

 私はメッセージをタップし、今社長と夕食を食べているところだと送った。返事はすぐにきた。

『社長って男の人?』

 その返事を見た瞬間、私はどきっとしたものの、平常心でそうだよ、と返した。

 出張に行くとは言ったが、男性と出掛けるということは話していない。こちらもそんなつもりではないし、敢えて言うようなことでもないと思った。

「なんだ。怒ってるんじゃないのか?」

「違いますよ。……多分」

「仮に俺と篠塚がそんなこと百パーセントないにしても、向こうはそうは思わないんじゃないか。篠塚だって、その男の職場に可愛い女の子がいたらどうする? その子と飲みに行ってるなんて言われて平気か?」

 鈴野さんを思い出して胸がちくりと痛む。

 彼女と春樹くんのことはもうほとんど疑っていなかった。

 彼は宣言通り、私以外の女性と話すときは淡々としていてかつての王子様の面影はない。本当に、《《私だけに》》優しくしているようだった。

 けれどあの時は自分の中の嫌な感情を思い出して苦しんだ。

 彼女がなぎさちゃんにとてもよく似ていたからでもあるが、嫌われないようにと虚勢を張れば張るほど辛かった。

 あの穏やかな春樹くんもそんな気持ちになるだろうか。

「誤解されないように連絡しておくんだぞ。って、誘った俺が言うのも変だけどな」

「誤解されたら社長のせいにしますね」

「おい」

 しかし、飲んでいる間春樹くんからの返事を待ってみたが、店を出るまで、ついに彼からのメッセージは届かなかった。
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