恋愛タイムカプセル
それから何度か彼とメールのやりとりをした。
彼は私が住んでいる街と近い場所に暮らしているらしい。詳しい話はしていないけれど、待ち合わせ場所と、食事する場所を決めて、当日楽しみにしていると連絡をした。
その間、私はずっとウキウキした気分で毎日を過ごした。なんだか高校生の時に戻ったみたいな気分だった。
私が自分に自信を持ったからかもしれない。私は過去よりも確実に美人になったはずだ。化粧だって上手にできるようになったし、ダイエットだって頑張った。ナンパだって何度かされたことがある。だから、あの時よりももっと自信を持って、彼と喋れるだろう。
当日は何を着ていこう。彼はどんな格好で来るだろう。あまり派手なのはよくないけれど、センスよく、品があって、可愛く、美人に見える格好がいい。
手落ちの服を思い出した。デートに着ていく服はあるだろうか。その日までにネイルを新しくして、髪も染めておこう。彼の隣を歩いても違和感がないように。
そんな妄想像ばかりしていた。
けれど、疑問に思った。なぜ彼は、振ったはずの私の誘いに応じたのだろう。あれから何年も経って、忘れたのだろうか。それとも、過去のことは気にしないタイプなのか。
彼が私に会う理由はない。なんだったら、嫌われていても不思議ではなかった。
ウキウキしていた気持ちは過去のことを思い出すと途端に萎んでいく。
ひょっとして、彼は私に会って文句を言うつもりじゃないだろうか。そんなことまで考えていた。
当日、指定した駅の改札口の前で待った。時刻はもうすぐ夕方六時に差し掛かる。駅はちょうど帰宅ラッシュで帰りを急ぐ人たちが詰め寄せていた。
私は人ゴミの中に目線をあちこちさせながら彼を待った。
待ち合わせの時間までまだ十数分ほどある。もう一度頭から爪先までチェックを入れた。
今日はVネックのニットに、ミモレ丈のスカートを合わせた。髪の毛は少しだけ巻いてアップスタイル。小ぶりのネックレスに、ネイルは淡いピンク色で控えめにした。どこへ行っても間違いない格好────だと思う。
少しでも印象をよくしたくて、格好はかなり吟味した。
彼は一体どんな格好で来るだろう。高校の時の私服は知らないけど、スラッとしていてスタイルのいい体だったから、細身のパンツにちょっと大きめのトップスを合わせたりなんかしたら格好いいと思う。
なんて、私が彼におしゃれ指導できるわけないんだけど。
「もう来てもいい頃なんだけどな……どこにいるんだろう」
私は改札口前に着いたことをメッセージで知らせた。周りはスマホを見ている人ばかりだから、彼かどうかはわからない。
一体どの人が彼だろう。顔を見ればわかると思うんだけど。
「────篠塚さん?」
その声に私は大きく反応した。その呼び方は、あの時のままだ。穏やかな声色。落ち着いた声。間違いない。
けれど────。
「────春樹、くん……?」
私も疑問形で返した。それは、久しぶりに会ったからではない。《《あまりにも変わりすぎて》》本人かどうか怪しかったからだ。
目の前にいる男性はしっかりと私の方を見ている。身長は百七十オーバー。多分あの頃より少し伸びた。体型も、すらっとしていて細身だ。
上半身はブルーのシャツ、下半身はジーンズ。黒縁メガネ、特に何もしていない、ごくごく普通な髪型。
私は昔流行った「電車男」を思い浮かべた。要は、オタクっぽかったのだ。
そんなまさか。彼があの王子様なわけがない。けれど、顔はどことなく似ている。面影はしっかりとある。だから変な人だなんて顔に嫌悪感を浮かべるわけにもいかなかった。