恋愛タイムカプセル
episode 10. 記憶の中の王子様
青木さんに返事をした後日、彼女から同窓会の詳細が送られてきた。
参加人数が多かったので、ホテルの宴会場を予約したそうだ。同学年の子達がゾロゾロと来るわけだから、かなりの人数になるだろう。
会費はかなり高額だったが、会場のことを考えると仕方ないのかもしれない。
同窓会は楽しみだったが、仕事の方は忙しくなった。
先日出張で行った神田茶園の仕事と、別に自分が受け持っている仕事もあって、会社と現場を行ったり来たりの日々になった。
おかげであれ以降、春樹くんと会えていない。
朝から出ずっぱりだった私は夕方前の十五時になってようやく事務所に帰ってきた。
お昼もまともに食べていないので、吉野家で何か食べるか、コンビニで買ってくるか────。
悩んでいたところで死にそうな顔をしてマウスを連打していた由香に気付いた。
「お疲れさま。大丈夫?」
「全然。やばい」
「私これからお昼いくんだけど……何か買ってこようか?」
由香はやや猫背気味な体をぐるりと私の方へ向けた。
「ご飯食べるなら行く」
「え、食べてなかったの?」
この様子だとぶっ通しで仕事をしていたらしい。目の下のクマが彼女の状況を物語っている。
「でも、仕事急いでるんじゃないの?」
「いい。気分転換しないとそろそろ死んじゃいそう」
本当に死にそうな顔だ。私は由香と二人で遅い昼食に出かけることにした。
とにかくお腹が空いていたので、オシャレさとかは気にせず二人で吉野家に入った。由香は牛丼。私は焼き鳥丼を頼んで、一息つく。
十五時台ともなれば店内には人がほとんどいなかった。カウンターには私たちと同じように昼を食べそびれたと思しきサラリーマンが一人いるだけだ。
「やばいよ〜今月ハード過ぎる……私先週半日しか休みとってないんだよ」
「どこかでまとめてお休みもらいなよ。体もたないよ」
「朝陽の方は? 結構忙しそうだけど」
「えー……、うん。結構、割と」
「その分冬のボーナス期待しておこ。もうすぐクリスマスなのにさあ、忙し過ぎて彼氏作る暇もないよ。これじゃ寿退社なんて何十年後か分からない」
「寿退社する予定なの?」
おかしそうに答えると、そう! と意気込む由香。
確かにこの業界で働く年配の女性は少ない。寿退社する人は多いのかもしれない。
「いいよね朝陽は。出来たてほやほやのアツアツカップルなんでしょ?」
「そ、そんなパンみたいに言わないでよ。そんなに言うほどアツアツでもないし」
「その後うまくいってるの?」
「うん、まあ一応ね。でも、今度高校の同窓会があるんだけど、なんか彼のことが心配なんだ」
「なんで? 高校の時モテモテだったから? 誰かにアプローチされるかもって?」
「いや、そうじゃなくて……。確かにそうだったけど、今は全然違うから。みんな彼のこと見たら絶対驚くよ。幻滅するかもしれない」
「彼氏のことそこまで言う?」
「だって、そう思ったんだもの。私は好きだから別に構わないけど、憧れてる人だったらショックでしょう?」
現に、一番初めは私もショックを受けた。一体何をどうしたらこんなにダサくなるのだろうと思うほど、彼は落ちぶれていた。
高校の時の王子様があんなふうになっていたら、みんな発狂するのではないだろうか。
「いいじゃない。そんな彼の魅力をわかってるのは朝陽だけなんだから。顔も大事だけど、最終的には性格の方が重要だし。それでみんなが幻滅するのなら、結局それだけしか見てなかったってことでしょ? なら本気で彼のこと好きな朝陽の勝ちよ」
「勝ち、かあ……」
恋愛で勝ち、負けなんて意識したことがない。けれど恋愛は戦争や勝負と同じようなものなのかもしれない。
私はあの時なぎさちゃんに負けた。今は、勝った────ってことだろうか。
ただ、不安だった。同窓会に彼女が来て、春樹くんが昔の恋を思い出してしまわないか。
参加人数が多かったので、ホテルの宴会場を予約したそうだ。同学年の子達がゾロゾロと来るわけだから、かなりの人数になるだろう。
会費はかなり高額だったが、会場のことを考えると仕方ないのかもしれない。
同窓会は楽しみだったが、仕事の方は忙しくなった。
先日出張で行った神田茶園の仕事と、別に自分が受け持っている仕事もあって、会社と現場を行ったり来たりの日々になった。
おかげであれ以降、春樹くんと会えていない。
朝から出ずっぱりだった私は夕方前の十五時になってようやく事務所に帰ってきた。
お昼もまともに食べていないので、吉野家で何か食べるか、コンビニで買ってくるか────。
悩んでいたところで死にそうな顔をしてマウスを連打していた由香に気付いた。
「お疲れさま。大丈夫?」
「全然。やばい」
「私これからお昼いくんだけど……何か買ってこようか?」
由香はやや猫背気味な体をぐるりと私の方へ向けた。
「ご飯食べるなら行く」
「え、食べてなかったの?」
この様子だとぶっ通しで仕事をしていたらしい。目の下のクマが彼女の状況を物語っている。
「でも、仕事急いでるんじゃないの?」
「いい。気分転換しないとそろそろ死んじゃいそう」
本当に死にそうな顔だ。私は由香と二人で遅い昼食に出かけることにした。
とにかくお腹が空いていたので、オシャレさとかは気にせず二人で吉野家に入った。由香は牛丼。私は焼き鳥丼を頼んで、一息つく。
十五時台ともなれば店内には人がほとんどいなかった。カウンターには私たちと同じように昼を食べそびれたと思しきサラリーマンが一人いるだけだ。
「やばいよ〜今月ハード過ぎる……私先週半日しか休みとってないんだよ」
「どこかでまとめてお休みもらいなよ。体もたないよ」
「朝陽の方は? 結構忙しそうだけど」
「えー……、うん。結構、割と」
「その分冬のボーナス期待しておこ。もうすぐクリスマスなのにさあ、忙し過ぎて彼氏作る暇もないよ。これじゃ寿退社なんて何十年後か分からない」
「寿退社する予定なの?」
おかしそうに答えると、そう! と意気込む由香。
確かにこの業界で働く年配の女性は少ない。寿退社する人は多いのかもしれない。
「いいよね朝陽は。出来たてほやほやのアツアツカップルなんでしょ?」
「そ、そんなパンみたいに言わないでよ。そんなに言うほどアツアツでもないし」
「その後うまくいってるの?」
「うん、まあ一応ね。でも、今度高校の同窓会があるんだけど、なんか彼のことが心配なんだ」
「なんで? 高校の時モテモテだったから? 誰かにアプローチされるかもって?」
「いや、そうじゃなくて……。確かにそうだったけど、今は全然違うから。みんな彼のこと見たら絶対驚くよ。幻滅するかもしれない」
「彼氏のことそこまで言う?」
「だって、そう思ったんだもの。私は好きだから別に構わないけど、憧れてる人だったらショックでしょう?」
現に、一番初めは私もショックを受けた。一体何をどうしたらこんなにダサくなるのだろうと思うほど、彼は落ちぶれていた。
高校の時の王子様があんなふうになっていたら、みんな発狂するのではないだろうか。
「いいじゃない。そんな彼の魅力をわかってるのは朝陽だけなんだから。顔も大事だけど、最終的には性格の方が重要だし。それでみんなが幻滅するのなら、結局それだけしか見てなかったってことでしょ? なら本気で彼のこと好きな朝陽の勝ちよ」
「勝ち、かあ……」
恋愛で勝ち、負けなんて意識したことがない。けれど恋愛は戦争や勝負と同じようなものなのかもしれない。
私はあの時なぎさちゃんに負けた。今は、勝った────ってことだろうか。
ただ、不安だった。同窓会に彼女が来て、春樹くんが昔の恋を思い出してしまわないか。