恋愛タイムカプセル
同窓会が行われる『藤宮プリンスホテル』は駅近徒歩五分と好立地な場所にあり、ミシュランガイドでは五つ星を獲得しているラグジュアリーなホテルだ。私は一度も利用したことがない。
ようやくホテルの前までやってきたが、ホテルの佇まいに圧倒されてなんとなく場違いだなと思いながらもホテルに乗り込んだ。
ロビーに入ると、同級生と思しき男性女性が大勢いいた。久しぶりに会って、昔話に花を咲かせているのだろうか。
男性の方はカジュアルな格好だが、女性は綺麗目なワンピースを身に纏ってどの子もキメている。気持ちは分かる。私もこのためにワンピースを一着新調したから。
だって仮にも春樹くんが来るのだ。変な格好なんて出来ない。そういう彼は、いつもの野暮ったい格好なのだろうけれど────。
会場はすでに人で一杯だった。同級生が一体何人いるのか分からないが、二百人近くはいるはずだ。
しかしあれから何年も経っているからか、みんな顔も雰囲気も変わっていて誰なのかよく分からない。
「朝陽!」
突然元気な声に呼ばれた。その声に反応してキョロキョロ辺りを見回すと、向こうのテーブルでロングヘアの女性が手を振っていた。数秒見つめて、それがやっと美緒だったことに気がつく。
美緒の容姿は随分変わっていた。高校の頃はショートカットだったが、ずいぶん髪を伸ばしたらしい。おかげであの頃より大分大人っぽく見える。
「美緒! 久しぶりだね!」
「元気してた〜? 今ちょうどみんなで朝陽のこと話してたところだったんだ」
懐かしいクラスメイト達だ。みんなどこか変わっているが、どこか面影を残している。
そう思うと、私達も大人になってしまったんだなと感じた。
「朝陽、なんだか垢抜けたね。前よりきれいになった」
「それは多分、仕事で揉まれたからだね」
懐かしい友人。懐かしい顔ぶれ────。私はしばらく高校生のあの頃に戻ったような気分になった。
旧友達とかつての思い出を分かち合った後、同窓会の開始時刻が迫ったことを司会の女性が知らせた。
「そういえば、王子様は来てないねえ」
美緒は飲み物が並んだテーブルからグラスを一つ取った。続いて私も同じグラスを取り、美緒と同じく周囲を見回す。
確かに、春樹くんは来ていないようだ。もし来ていたなら、ちょっとぐらい会場が騒がしくなっただろう。
参加すると言っていたが、予定が変わったのだろうか。もしくは何かの用事が入ったとか────。
だが、彼が来なくてある意味よかったかもしれない。美緒も「王子様」のファンの一人だった。彼の姿を見たら大絶叫しているかもしれない。