恋愛タイムカプセル
約束した土曜日。まだ昼間でも寒々しかった。
私は冷たい風に身を縮こめながらバスから降りてその場所へ向かった。
バス停から水道局は歩いて大体五分ぐらいだ。最後の思い出になるかもしれないからと、目に焼き付けるように辺りを見る。
なぜ先日のように図書館や公民館ではないのか不思議だった。ただの待ち合わせならもっと適当な場所があったはずだ。それこそ、こんなところまで来る必要などなかった。
もしかしたら水道局を見に行った時、彼が寂しそうな顔を浮かべていたのと何か関係しているのだろうか。
歩くと徐々に水道局の白い建物に近づいた。やがてその建物の入り口が見えると、その前に立っていた彼の姿も見えた。
今日の彼は同窓会の時と同じだ。いつもの野暮ったい彼ではない。だからなんだか落ち着かなくて、あの時のように悪いことがあるのではないかと戸惑ってしまう。
春樹くんはすぐに私の姿を見つけ、私は一度立ち止まった。私達は人形になったようにじっと見つめあって、互いの感情を探っているようだった。
ゆっくりと近くと、彼は「来てくれてありがとう」、と声を発した。
「……話って、なに?」
気は進まなかったが、自分から切り出した。嫌な話なら早く終わらせて欲しい。だらだら話していても辛い記憶をえぐるだけだ。
「手紙にも書いたけど、同窓会のことは誤解なんだ」
「じゃあ、なぎさちゃんと何を話したの……」
「──それは」
春樹くんが困ったように俯く。
がっかりなんてしなかった。ただ私は、ああ、やっぱりそうなんだと思っただけだ。
彼は私が傷つかないようにオブラートに包んでくれている。けれどそれが余計に、彼となぎさちゃんの間に何かがあったことを隠しているように思えてならなかった。
私は面白くもないのに笑いが込み上げた。
「もう、いいよ。分かってたことだから。春樹くんも、あの噂のこと知ってるんでしょう。だから私を騙して、あの時の恨みを晴らそうとしてたんじゃないの」
────こんな悲しいことってあるだろうか。
鬱陶しい女だと、ややこしい女だと思われたくないのに、涙はひとりでに溢れるし感情のコントロールが効かない。
私の中に嫉妬があったことは事実だけど、私はそんなことしていない。それを彼に疑われたことが何よりも悲しくて、ショックだった。
でもしょうがないことだ。小さい頃から私のことを知っていたとしても、私は彼女じゃなかった。彼が好きになったのは私じゃなく、なぎさちゃんだった。
「朝陽はそんなことしないよ」
穏やかな声が私を包む。私はふっと顔を上げて彼を見た。
「噂のことは知ってる。けど俺は、朝陽がそんなことしたなんて思ったことは一度もないよ」
「そんなわけない……!」
考えるよりも先に、私は彼の言葉を否定した。
そんなわけがないのだ。彼はあの噂を信じているはずだ。でなければ、どうして私に嘘をついていたのか分からない。
私は冷たい風に身を縮こめながらバスから降りてその場所へ向かった。
バス停から水道局は歩いて大体五分ぐらいだ。最後の思い出になるかもしれないからと、目に焼き付けるように辺りを見る。
なぜ先日のように図書館や公民館ではないのか不思議だった。ただの待ち合わせならもっと適当な場所があったはずだ。それこそ、こんなところまで来る必要などなかった。
もしかしたら水道局を見に行った時、彼が寂しそうな顔を浮かべていたのと何か関係しているのだろうか。
歩くと徐々に水道局の白い建物に近づいた。やがてその建物の入り口が見えると、その前に立っていた彼の姿も見えた。
今日の彼は同窓会の時と同じだ。いつもの野暮ったい彼ではない。だからなんだか落ち着かなくて、あの時のように悪いことがあるのではないかと戸惑ってしまう。
春樹くんはすぐに私の姿を見つけ、私は一度立ち止まった。私達は人形になったようにじっと見つめあって、互いの感情を探っているようだった。
ゆっくりと近くと、彼は「来てくれてありがとう」、と声を発した。
「……話って、なに?」
気は進まなかったが、自分から切り出した。嫌な話なら早く終わらせて欲しい。だらだら話していても辛い記憶をえぐるだけだ。
「手紙にも書いたけど、同窓会のことは誤解なんだ」
「じゃあ、なぎさちゃんと何を話したの……」
「──それは」
春樹くんが困ったように俯く。
がっかりなんてしなかった。ただ私は、ああ、やっぱりそうなんだと思っただけだ。
彼は私が傷つかないようにオブラートに包んでくれている。けれどそれが余計に、彼となぎさちゃんの間に何かがあったことを隠しているように思えてならなかった。
私は面白くもないのに笑いが込み上げた。
「もう、いいよ。分かってたことだから。春樹くんも、あの噂のこと知ってるんでしょう。だから私を騙して、あの時の恨みを晴らそうとしてたんじゃないの」
────こんな悲しいことってあるだろうか。
鬱陶しい女だと、ややこしい女だと思われたくないのに、涙はひとりでに溢れるし感情のコントロールが効かない。
私の中に嫉妬があったことは事実だけど、私はそんなことしていない。それを彼に疑われたことが何よりも悲しくて、ショックだった。
でもしょうがないことだ。小さい頃から私のことを知っていたとしても、私は彼女じゃなかった。彼が好きになったのは私じゃなく、なぎさちゃんだった。
「朝陽はそんなことしないよ」
穏やかな声が私を包む。私はふっと顔を上げて彼を見た。
「噂のことは知ってる。けど俺は、朝陽がそんなことしたなんて思ったことは一度もないよ」
「そんなわけない……!」
考えるよりも先に、私は彼の言葉を否定した。
そんなわけがないのだ。彼はあの噂を信じているはずだ。でなければ、どうして私に嘘をついていたのか分からない。