恋愛タイムカプセル
 頼んでいた食事が来た。彼は同じ食事を突くのはへっちゃららしい。私もへっちゃらだけど、かつての憧れの人と同じ食事を突いても今はドキドキも何もしなかった。

「春樹くんは────高校を出てからどうしてたの?」

「大学に行ってたよ。そこで司書の資格を取ったんだ」

「じゃあ、最初から狙ってたんだ。いいなあ、本に囲まれながら仕事するなんて楽しそう」

 これはお世辞ではなく、心からの言葉だった。本は私も好きだし、よく読んでいる。今はデザイン関係の本ばかり読んでいるけど、昔はよく小説を読んでいた。彼とその話題で盛り上がったこともある。

「仕事中に本が読めたらいいんだけどね」

「司書って、確か本の貸し出しとかするんだよね? 大変?」

「結構楽だと思ってたんだけど、割と大変だよ。勤めてるところが────市立図書館なんだ。まあ、いろんな人が来るからね。延滞する人も大勢いるし」

「じゃあ、催促の電話とかするの?」

「そういうのはないよ。ただ、返さない人は本が借りられなくなるし、そのまま返さないと弁償しないといけない。借金取りみたいだな」

 彼の例えがおかしくてつい笑ってしまう。

 不思議な気分だった。私と彼はもう何年かぶりに会うのに、まだ彼といて楽しいと感じている。気持ちはあの時断ち切ったはずなのに、まだ心のどこかで諦め切れていなかったのだろうか。

 けど、好きになるのは無理だ。いくら私でも好みってものがある。見た目の清潔感は欲しいし、おしゃれに気を使えない人は私生活もだらしないことが多い。

 考えれば考えるほど、彼が高校の時から変貌してしまった理由が気になった。けれど変わったね、なんて言えないし、その理由も聞けない。私の頭には一つのこと以外思い浮かばなかった。

 ────やっぱり、彼女と別れたのが原因……?
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