陽だまり笑顔の君に
「お疲れ様」
1部分の収録が大方終わり
今日は解散となった午後
コツンと缶ジュースを
私のおでこに当てて
俊くんがそう言った。
「お疲れさま」
私が受け取ったのを
確認すると俊くんが
私の隣に座った。
収録のあと桜庭くんは
自分の科に戻っていき
優亜と紀田さんは何か
別の用があるみたいで
どこかへ行ってしまった。
残された私と俊くんは
専門学校内の図書館で
ちょっと休憩をしている。
「そういや菜々は、この後…授業とかないの?」
「私は今日の予定はもうない。俊くんこそ、大学戻らなくていいの?」
「今日は1限と3限だけだったから。そのせいで少し遅れたけど」
「そっか。大変だね。」
「菜々もな。でも、今日…良かったよ」
ちょっと照れくさそうに
視線を逸らす俊くん
その俊くんの言葉が
何よりも嬉しくて
誰かにこんなふうに
言ってもらえたことなくて
いつも友達の優亜の声優としての
才能に嫉妬してばかりの
どうしようもない私に
俊くんはいつも優しい
言葉をかけてくれる。
「ありがとう。私頑張る。」
自然と零れた満面の笑みに
俊くんも微笑み返してくれた。
「この後、予定ないみたいだしデート行くぞ」
突然立ち上がったかと思いきや
私の返事も聞かずに手を掴んで
歩き出す…付き合ってからまだ
全然日が浅いけれど…たぶん
この強引さがなくなることは
ない気がする…
「わかったから、せめて普通に手を繋いで」
「仕方ねえな」
そんな会話をしながら
学校の門まで近づいた
その時
「菜々」
もう1年以上聴いていない
あの大好きな優しい声色が
私の思考回路を停止させた。