愛され、囲われ、堕ちていく
「いいか…!ここで俺と凪を素直に出せば、何もしねぇ……
ただ、まだ止めようとするなら今から地獄を見るぞ!」
警備員の耳元で、囁く。

「これでも、俺にとっては“かなり”抑えてんだから!」
「伊織!約束!」
「あ、ごめんね…凪。
怖いよね…?帰ろ!」
「でも伊織、どうするの?こんなことして!」
「あとは敬太と臣平に任せてある。
あ、紅音!お前も乗れよ!運転して!」
「わかった」
紅音が運転席に座り、凪沙を後部座席に乗せた伊織に、他の警備員やホテル従業員が駆けつけ声をかけてきた。

「ちょっと、君!」
「だから!
…………そんなに地獄を見たいのかよ…!?」
そう言うと、警備員や従業員達に向き直った。
「見せてやるよ…!地獄………」

「凪沙!!目瞑って、外見ちゃダメよ!」
車内で紅音が凪沙に言う。
「うん…止めなきゃって思うのに……身体が動かない……」

車のすぐ近くで、伊織のなぶり殺しが行われている。
でも、凪沙も紅音も車から出ることができなかった。

不意に、後部座席のドアが開いた。
「え?」
「お願い!助けて、凪沙。
伊織くんを止められるのは、凪沙だけでしょ?」
同級生の友人達が、助けを求めてきた。
「ダメよ!凪沙を外に出しちゃ……」
「でも、紅音!凪沙じゃないと、伊織くん止まらないでしょ!?」
「紅音、大丈夫」
そう言って、車を降りた。
凪沙の目の前の光景に、悪寒がした。
地獄なんてもんじゃなかった。
これは、惨劇だ。
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