愛され、囲われ、堕ちていく
心酔
「敬太、家に帰る」
「わかった」
その言葉で、マンションに向かった二人だった。

家に着き、靴を脱ぎながら声をかけた。
「凪~ただいま~」
いつもならタタタ…と走って出迎えに来るのに、今日は来ない。
「凪~
凪沙~
凪沙ちゃ~ん」
何度も呼びかけながら、中に入っていく。

「凪…?」
すると凪沙はテーブルに顔を伏せて、眠っていた。
その無防備な愛しい姿に、さっきまでのモヤモヤした怒りが一気に冷めた。
さっきの悪魔のような伊織の表情が、穏やかになる。
優しく微笑んだ伊織は、凪沙の頭を撫でた。

「可愛い…凪」
とにかく、凪沙の全てが愛しくてしかたがない……

凪沙をもっと普通に自由にしてあげたいが、伊織には無理だ。
伊織は黒江の言う通り、愛情に飢えている。
宝物を誰にも見られないように、触られないように抱え込んで囲う子どものように、凪沙を囲いたいのだ。

例え宝物(凪沙)が壊れてしまっても━━━━

しばらく頭を撫でながら凪沙を見つめていると、
「ん……
ん?伊織…?あれ?」
眠たそうに、顔を上げた凪沙。
「おはよ…」
「仕事は?」
「今日は早く終わったの」
「そっかぁ。お疲れ様…!」
「買い物、行こ?」
「うん、すぐ用意するね!」

そして、外に出た二人だった。
敬太がエントランスで待っていて、車に乗り込む。
「敬太さん、お待たせしてごめんね…」
「ううん。早く帰ってきたから、バタバタだったんでしょ?」
「いや、ちょっとうたた寝してて…」
「凪、可愛かったなぁ~」
「恥ずかしい…」
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