俺の名前はジョンじゃない!
 休み時間――。

 教室で友達とくだらない話(主に下ネタ)で盛り上がっていたところをクラスメイトの女子に呼ばれたのでそちらを向くと、開け放たれたドアから申し訳なさそうに顔を出した美咲がいた。

 何事かと思い、近づいていくと隠れるようにドアから顔を引っ込めてしまった。何がしたいのか、何をしに来たのか、さっぱり分からないヤツだな。

「何の用だ?」
「ジョン、ちょっと来て」

 有無も言わさず俺の腕を引いて歩き出した美咲に、教室の中からは「頑張れ、お兄ちゃん」やら「狼になるなよ」やら、言いたい放題の声が聞こえ、その中に呪詛のような言葉も聞こえていた。お前等、俺を呪い殺す気かよ。


 無言で前を歩く美咲に連れられて着いた先は体育館の裏だった。

 まさか、今から不良が出てきて俺を袋叩き……ありきたりだが実際にその場に直面したら怖いだろうな。

 この学校にも一応はそれらしき面々がいるが、美咲とは知り合いではないだろうし、第一俺はいつも美咲といるので友達関係は熟知しているつもりだ。

 まあ、男友達が近づいてきたら軽く威嚇しているのは美咲には内緒だけど。

「……ジョン」
「お、俺を襲っても面白い事なんてないぞっ」
「何言っているの? 別にジョンを襲うつもりなんてないよ」

 身構えた俺を哀れな目で見つめ、その場にしゃがみ込んだ美咲の足元で小さな毛むくじゃらの物体が動いていた。

「……子犬?」
「そう、可愛いでしょ? あ、こら……くすぐったよ」

 小さく鳴き声を上げて美咲の指を舐める子犬を見つめて、美咲は優しく笑みを浮かべていた。

「どうしたんだよ? その子犬」
「さっき、体育の時間に見つけたの」

 子犬を抱きかかえて俺を見上げる美咲は眉尻を下げて何かを訴えかけてくる。しかし、その”何か”は俺には分かっているので美咲に気付かれないように小さくため息を吐いた。


 ……また始まったか。


 小さい頃から動物が好きで、中でも部類の犬好きの美咲にとって『犬を飼う』のは長年の夢なのだ。しかし、どうして家では飼えない理由というものがあって、それが美咲を苦しめている事も知っている。
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