俺の名前はジョンじゃない!
「おばさん、アレルギーだろ。また、喘息起こしても知らないぞ」
「そんな事は分かってるけど……」

 悲しそうに瞳を伏せ、子犬の頭を撫でている美咲もその事は分かっている。

 おばさんも「私がこうじゃなければ飼ってもいいんだけどね」と申し訳なそうにこぼしていたが、犬が近寄っただけで酷い喘息が出てしまうので実際に飼うのは無理だろう。

「でも、かわいそうだよ」
「確かにそうだが、連れて帰る事は出来ない」

 今にも泣きそうな顔で俺を見つめる美咲だが、こればかりはどうしようもない。

 これは誰からも頼まれた事ではないが、もうあんな思いをするのは嫌なので心を鬼にして突き放す必要があるのだ。

「ほら、授業が始まるから教室に戻るぞ。それから、ちゃんと毛は払っておけよ」
「分かってるよ……じゃね、ワンちゃん」

 鼻をすすりながら子犬を下ろした美咲は勢いよく立ち上がり、何も言わずに歩き出した。

 すると置いて行かれるのが分かったのか、小さくすがるような鳴き声を上げている子犬を一度振り返った美咲。

 その顔は今にも泣きそうで、口をグッとかみ締めるようにしてそのまま校舎へ駆け込んで行った。


 ……あそこまでしないと離れられないのか。


 犬好きも極まると大変なんだと思いながら、俺の足にすり付いてきた子犬に苦笑いを浮かべていた。
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