不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「ヤダ、離して」
「……離さない」
「今は冷静に話せる気がしないの。だからお願い、ひとりにして」
「こんなときに、ひとりになんてするわけないだろ!」
灯が堪りかねたように叫んだ。
驚いて、ビクリと肩を揺らした私を見た灯は、ハッとしてから私の腕を掴んだ手を離すと、クシャリと自身の髪をかき上げた。
「悪い、大きな声出して。俺も少し、動揺してて……」
「灯が動揺……?」
「当たり前だろ。お腹の子だけじゃなく、牡丹の命にも関わることなんだから、冷静に考えろってほうが無理に決まってる」
そう言うと灯は自分の顔を覆って、深く長いため息を吐いた。
対する私は灯のその様子を見て、波が引くように荒れた心が凪いでいくのを感じた。
「……灯でも、そんなふうに思い悩むことがあるんだね」
「は? 当然だろ。牡丹は俺をサイボーグか何かだと思ってるのか?」
当たらずとも遠からず……とは、本人を前にしたら言えなかった。
だって、私が知ってる灯はどんなときでも冷静沈着で、常に最善の答えを導き出す完璧な人だから。
さっきだって、志村先生と森先輩の前で灯はすごく落ち着いているように見えたし、客観的に今何をするべきかを考えているようにも思えた。
「森のやつ……医者なら、牡丹もお腹の子も両方絶対に助けるって言えよな」
頬杖をつき、投げやりにそう言った灯はなんだかワガママを言っている子供みたいで可愛かった。