不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「それじゃあ藤嶋さん、行きますよ〜」
そしていよいよ、三十五週と三日目の朝がやってきた。
一ヶ月以上の管理入院ですべての準備を整えた私は、どうにか今日まで出血することなく持ち堪え、無事に予定帝王切開で出産できることになった。
「はい、よろしくお願いします」
朝イチで手術のために渡された服に着替え、いつでも手術室に行けるようにしていた私は看護師さんが持ってきてくれた車椅子に腰を下ろした。
「それじゃあ、ご主人も手術室の前まで一緒に行きましょう」
産婦人科の入院フロアがあるのは五階で、手術室があるのは二階だ。
移動のためにエレベーターに乗った私の緊張は、最高潮に達していた。
大丈夫、絶対に大丈夫……。
心の中で何度も何度も自分に言い聞かせる。
ここまで無事に持ったんだもん、あとは出産を乗り越えるだけだ。
目を閉じて息を深く吐き出すと、私は胸の前でギュッと手を握り締めた。
「それじゃあ、ここで少しお待ちくださいね」
手術室に繋がる銀色の大きな扉の前につくと、看護師さんが一時的に私達から離れた。
静寂に包まれたフロアには、自分の鼓動の音だけが響いているように感じる。
「ついにこの日が来たね……。もうあと一時間後くらいには、灯もパパになってるのかな?」
私は緊張と不安を誤魔化すように曖昧な笑顔を浮かべて、隣に立つ灯に声を掛けた。
すると、私を一瞥した彼は不意に拳を強く握りしめると腰を折って、私の目の前に膝をついた。