不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「灯……?」
「今、こんなことを言ったら余計に牡丹を不安にさせるだけかもしれないけど……。どうしても言わずにはいられないから、聞いてほしい」
「……うん」
「牡丹、愛してる。俺はここで祈ることしかできないけど、牡丹もお腹の子も絶対に元気に帰ってくるって信じて待ってるから。だから、頑張れ」
まるで懇願するように紡がれた言葉に胸がつまった。
私の手に重ねられた灯の手も、私と同じように震えている。
ああ……怖いのは、灯も一緒なんだ。
自分と同じ気持ちでいてくれる人がそばにいるということが、こんなにも心強いとは思わなかった。
「灯……ありがとう」
重なり合った手を精いっぱい優しく包んで握り返した私は、そっと息を吐いてから笑みを浮かべた。
「牡丹……?」
「絶対、ここに戻ってくるよ。赤ちゃんとふたりで、灯のところに帰ってくる。だから……約束して。私達が無事に帰ってきたら、今度は私と赤ちゃんに愛してるって言って抱きしめてね」
──もしかしたら、これが最後の会話になるかもしれない。なんて、どうしてもそんなことを考えてしまうのは、散々『もしも』の話をされたからだ。
でも、その『もしも』は確かに今、私達に起こりうる可能性のある未来で、こんなにも死を身近に感じたことは、これまで生きてきて一度もなかった。
同時に、こんなにも生きたいと願ったのも初めてだった。
私はまだまだ生きていたい。生きて、愛する我が子を抱きしめたい。
温かい灯の腕の中に、お腹の子と一緒に必ず戻ってきたいと強く思う。