不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
 


「お待たせしました、それじゃあ行きましょう」


 看護師さんがやってきて、私は車椅子に乗ったまま手術室の中に入った。

 去り際に灯がどんな顔をしていたかはわからないけれど、真っすぐに前を向いた私の心は不思議と穏やかで落ち着いていた。





「それじゃあ、麻酔入りますね〜」


 それからあっという間に手術が始まり、私は正にまな板の上の鯉になった。

 手術は全身麻酔ではなく部分麻酔で行われたため、手術中にも関わらず意識はハッキリしている。
 だけど、この短時間で小心者な性分は変えられない。

 手術中は余計なことを考えないようにと、ひたすらに顔の横に設置されている心電図のモニターを眺めていた。

 モニターの右上には時間の表示があり、一分、また一分……と、淡々と時間だけが流れていく。


「赤ちゃん出るよー!」


 ちょうど、その時刻が十三時に変わったとき、志村先生の声が聞こえて私はハッと我に返った。

 麻酔のおかげで痛みはないけれど、お腹を引っ張られたり押される感覚だけはあって、それが一層強くなった。

 
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