不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「お疲れ様でした」
今日も一日の仕事を終え帰路についた私は、駅のホームで電車を待ちながらぼんやりと宙を眺めていた。
夫である灯に初めて抱かれた日の翌朝、目覚めるとベッドに彼の姿はなかった。
まだ僅かに痛む下腹部と気怠い身体を起こしてリビングに向かった私は、置きっぱなしだった携帯電話を確認して彼の所在を知った。
【朝イチで会議が入った】
届いていたのはたった一言、業務連絡としか思えない味気ないメッセージだ。
つまり灯は、眠る私を置いて家を出ると、ひとりでさっさと職場に向かったというわけだ。
別に……身体を気遣ってもらえるんじゃないかとか、そんな甘い期待はしていなかった。
でも、灯は身勝手な言動とは裏腹に、まるで宝物を扱うように私を抱いてくれたから、勝手に勘違いしそうになっただけ。
バカみたい。万にひとつも、灯が私を愛してくれているはずないのにね。
夫婦として初めて身体を重ねた日の朝に、ここまで虚しい気持ちになるとは思わなくて、苦笑いがこぼれた。
そうして、それから一ヶ月半が経った今日まで、灯とは夜を共にしていない。
お互いに仕事で忙しくてすれ違いの日々が続いているということもあるけれど、たまに休みが重なったときや、夕食を一緒に食べたあとにも灯が私を誘うことはなかった。