不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「今さら謝っても許されることじゃないってわかっているけど、あのときは本当に悪かった」
もう一度、念を押すように謝罪をされた私は、膝の上で握り締めていた手に力を込めた。
いつも堂々としていて余裕たっぷりで、一切隙を見せない人が俯いている。
今の灯は超一流ホテルの総支配人じゃない、ひとりの男として私に心から謝ってくれているんだ。
そう思ったら、なんだか目頭が熱くなり、胸がキュウッと締め付けられた。
「……確かに、あのときのことを思い出すと腹も立つし、正直、良い思い出とは言えないけど」
そこまで言って言葉を止めれば、灯の不安そうな目がこちらを向く。
私が口にした〝あのとき〟とは、酷い言葉で傷つけられた高校生時代と、初めてふたりで過ごした夜のことだ。
「でも今日、病院で赤ちゃんの心臓が動いているのを見たら、あのとき言われたことなんて、すごく小さなことに思えた」
「牡丹……」
もちろん、すべてを許したわけじゃない。もしかしたら一生許すことはできないかもしれないし、簡単に気持ちの整理がつくことでもなかった。
だけど妊娠がわかってから今この瞬間までの灯を見ていたら、とても怒る気にはなれなかったというだけだ。
何より灯が、私とお腹の子を大切にすると言ってくれて嬉しかった。
もしかしたらここからもう一度、夫婦としてやり直せるかもしれないと思ったんだ。