不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
 


「あの、灯……」

「もう、二度と同じことは繰り返さないから。牡丹のことになると、つい心が狭くなって……でも、それがダメなんだって、自分でもわかってるから」


 わけのわからないことを言った灯は、また深く息を吐くと目を閉じた。

 そしてしばらく考え込んだのち、ゆっくりと瞼を持ち上げると、今度は落ち着いた様子で口を開いた。


「職場への報告については、本来なら安定期に入ってからするのがいいんだろうけど、牡丹の場合は悪阻の症状も出ているし、フロント・マネージャーである米田には早々に妊娠の事実を伝えておくべきだろう」


 淡々とした口調でそう言った灯は、真っすぐに私を見つめた。


「もちろん、それ以外のフロントスタッフにも事情を伝えておいたほうが、何かあったときの対処が楽になるかもしれない。ただデリケートなことでもあるし、どこまで伝えるかはしっかりと考えてから判断をしたほうがいい」


 言葉を続けた灯は、いかなるときにも鷹揚自若なフジロイヤルの総支配人の顔をしていた。

 的確なアドバイスを受け、冷静になった私はそっとお腹に手を当てると改めてお腹の子のことを考えた。

 産婦人科でお会計を待つ間、私も私なりに色々と調べて、心拍を確認できたあとも大体十二週くらいまでは早期流産の可能性があることを知った。

 一度身体に命を宿した後では想像もしたくないことだけれど、今お腹の中で動いている子供の心臓が止まってしまう可能性もあるということだ。

 まずは安定期に入るまで、油断はできない。

 もちろん安定期に入ったからといってすべての子供たちが元気に産まれてくるわけではないし、私は自分が妊娠してみて改めてそのことを実感して不安を覚えた。

 
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