不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「安定期前に妊娠の事実を伝える場合は、伝える側にもそれなりの覚悟が必要になってくる」
灯の言葉に強く拳を握った私は、お腹に落としていた視線をゆっくりと持ち上げた。
「うん、灯の言うとおりだと思う。でも私は、できれば今の仕事はこれからも続けていきたいの。だから、やっぱりそのためには周囲の人に妊娠のことを伝えておかないと、結局何かあったときに周りに迷惑をかけることになると思うから……」
もちろん不安は大きいし、もしものことがあった場合は自分が傷つくことにもなるだろう。
でも、私の場合は立ち仕事で、どうしても周りの人の助けが必要になるときも来るだろうということは予想がついた。
私の正直な思いを聞き届けた灯は厳しい目をしていたけれど、不意に小さく息を吐くと、視線を自身の手元に落とした。
「ああ、牡丹ならそう言うだろうとは思ってた。でも、俺としては無理だけはしてほしくないし、さっきも言った通り自分の身体のことを一番に考えてほしい」
その言葉は総支配人としてではなく、私の夫でありお腹の子の父でもある灯の言葉だった。
「うん。もちろん、身体のことは一番に考えたいと思ってる。でも、やっぱり私はフロントスタッフの仕事が好きだから、周囲が許してくれる限りは精いっぱいできることを勤め上げたい」
大学を卒業してフジロイヤルで働くことになったのは、両親が勧めたとおり、灯の妻となるための一手に過ぎなかった。
でも今は、フロントスタッフの仕事にやり甲斐も感じているし、何よりこの仕事を長く続けていきたいという希望がある。