眠れない総長は眠り姫を甘く惑わす
ドア枠から体を離すと、御影さんは私のほうに体を向けた。
「感動の抱擁とかないわけ?」
「1ヶ月くらいだし、感動っていうほどでもないような……」
「お前、変なとこで冷めてんな」
「あの、それよりも」
「それより?」
ぴくっと、御影さんの眉間が寄った。
「私、御影さんに伝えたいことがあって」
「……」
私はこの人に……御影さんになにを言えばいいのか。
私のせいで夜の世界の住人になったことを、どう償えばいいんだろうって。
1ヶ月間、何度もそれを考えた。
考えて考えて考えて───最後には、感謝の言葉を伝えたいって思ったんだ。
だって御影さんは、夜の世界が嫌なわけじゃないと言っていた。
だったら私が伝えるべきことは、謝罪じゃない。
ずっと守っていてくれたことへのお礼だって、そう思ったから。