眠れない総長は眠り姫を甘く惑わす



「それに?」

「記憶がなかったときの自分を、大事にしたい」

「……」



全てを思い出したからといって、あの数ヶ月が消えたわけじゃない。


空っぽの頭で目覚めたときの恐怖心も、御影さんへ対する心の機微(きび)も、銀くんやリクくんとの思い出も、全部を鮮明に覚えているから。


だからこそ、全てを昔に戻すんじゃなく、もう1人の自分がいた証を日常の中にも残したい。



あの日々は、御影さんに2度目の恋をした大切な時間だったから。



「まあ、お前がそういうなら別にいーけど」

「御影さんこそ、王子様モードには戻らないの?」

「白夜辞めるわけじゃねーし、意外とこっちもしっくりくるしな」

「あはは、そうなんだ」



最後にもう一度部屋を振り返り見て……


私たちは2人で、六畳一間へ帰った。




そして……

銀くんが目覚めないまま、更に1ヶ月の時が流れた───



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