海の向こうで-番外編-
「そう。私だよ…海が熱出してるって聞いて」
と私はぽつりと言った。海(かい)、それが彼の名前。
「…そっか」
彼はなぜかほっとした表情をした。
「なにか食べたいもの、ある?作るけど」
と言うと、彼は意外なことを口にした。
「…梅干しが乗ったお粥が食べたい」
いつもは「いいよ、後で自分で作るから」などと何事も自分でやろうとする彼でも、この時ばかりには人に頼りたくなるらしい。暴走族の総長がこんな普通のことを言うのが普段からは全く想像できなくて、なんだかかわいい。そんな彼が、付き合ってもいないのに愛しく感じちゃうのは私だけの秘密。
「分かった」
私は頷いて、そっと彼の部屋のドアを閉めた。