今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
素直で優しい性格だけど、ちょっとおっとりしていて甘えん坊、もっともそれは半分以上俺のせい。


普段からむちゃくちゃ甘やかしていて、何をするにも先回りして世話を焼いてしまうからだ。


出会った頃の千桜は母親を亡くして以来ずっと寂しくしていたから家族が増えて嬉しそうだった。


今でも、俺は初めて会った10年前の幼い彼女が目に焼き付いている。


亡くなった母親の形見のぬいぐるみを抱えて恥ずかしそうにこっちを見ていた。


母の再婚に複雑な思いがあった俺は彼女を初めからすんなり受け入れたわけじゃない。


だけど、千桜に対してどんなにそっけない態度をしてもめげずにお兄ちゃんお兄ちゃんとニコニコ愛らしい笑顔で全力で懐いてこられた。


そのうちに妹っていう存在がいることにも慣れてきて。


彼女のやることなすことすべてが可愛く思えてきた。


ひとつ屋根の下で一緒に暮らすうちに少しづつ仲良くなっていき、やがて現在の溺愛状態に至る。


あの頃は毎日くたくたになるまで遊んで一緒に倒れるように眠った。


彼女は眠くなると泣きそうな顔をして「ママ、ママ」と呟いていた。
< 19 / 443 >

この作品をシェア

pagetop