今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
そう言って綺麗にウィンクしてみせるからフフッと笑った。


「ふうん、そうなんだ」


「なんだよ他人事みたいに」


ちょっと唇を尖らせてから笑う彼がやっぱり兄に重なる。


笑った顔が兄に似ていると何回も思ったことがある。


「でも、ありがとう」


なんだかお礼が言いたくなるくらいちょっと心が軽くなった。


彼はとても優しい人だなって思った。


もしも、私が西原くんのことを好きだったらもっと簡単だったのかな。


もしも彼と両思いなら、何の問題もなく普通に付き合っていくんだろうな。


もっともっと楽だったのかもしれないな。


普通の恋愛か……。


そんなズルいことを一瞬考えてしまった。


心は別のところにあるって気がつきはじめているのに。


家の玄関前で拗ねた子供みたいに素振りをしていた彼の背中が頭から離れない。


さっき別れたばっかりなのにもう会いたいって思ってる。


胸の奥に住んでいるただ一人のその人のことを。
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