今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
ついついそんな意地悪な邪推をしてしまう。


そう思ってしまうくらいに頭に血が上ってしまっていたのかも。


キュッとスカートを掴んで一歩前へ出た。


「矢代さん、私怒ってるんです」


「……はぁ」


矢代さんは困ったように後ろへ下がる。


「たった一日泊まるくらいで、なんだって思われるかもしれませんけどっ」


「いいえ、そのようなことは思いませんが」


矢代さんは私の剣幕に押されたように眉を下げる。


だけど、そこはさすがに大人の対応で切りかえしてきた。


「私とて奥様の心情をお察ししております。
ですが最終的に翔坊ちゃんがご自分の意志でお泊まりになることを決められました。
私にこちらへ使いをよこしたのも坊ちゃんです。
それは私ならば奥様を説き伏せることが出来ると思ったからでしょう。
私は執事として坊ちゃんの指示に従っております」


「で、でも……」


こうも理路整然と説明されては反論できない。
< 203 / 443 >

この作品をシェア

pagetop