今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
ただいまの抱擁
翌朝の空はどんよりとした分厚い灰色の雲で覆われていた。
私の心の中は空よりもずっと暗かった。
「どうしたの?朝から怖い顔して」
「怖い顔?してないよ。普通だよ」
生徒玄関で歌ちゃんに会ったら、恐る恐る指摘された。
今朝私は珍しく自宅から1人で登校した。
いつものようにお迎えの車が来なかったから久しぶりに電車に乗ってきた。
電車は凄く混んでいて登校するだけで疲れてしまった。
すっかり贅沢に慣れてしまっていたのかもしれない。
「目の下のクマもひどいけど」
「うん、ちょっと眠れなくて」
「お兄さまと喧嘩でもした?」
「ううん、これから喧嘩するの」
低い声で決意表明したら、歌ちゃんはびっくりした顔をする。
「へ、どうして?」
「絶対許してあげないんだから」
拳を握りしめて靴箱をドンッと叩いたら歌ちゃんの肩が大きく震えた。
「ええーっ、どうしちゃったの千桜」
歌ちゃんは怖いものでも見るみたいに私に怯えている。
「いいの」
「まあまあ落ち着いて。いつもの可愛い千桜に戻ってよ」