今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
兄は私にいち早く気がついてこっちへ向かって駆け出してきた。


真っ直ぐに私だけを見つめている兄の端正な顔を見て思わず胸がドキッとした。


その瞬間、思わずくるりと踵を返して逃げ出してしまった。


今、彼と面と向かって話したくない。


きっと、私いますごくすごく危うい。


なにかとんでもないことを彼に言ってしまいそうな気がして怖くなった。


「……ひゃ」


だけど俊足の兄にかなうわけもなく、あっという間に腕を掴まれてしまった。


「や、離して」


「おい、どうして逃げるんだ?」


「だって、見たくないから」


「は、見たくないってなにを?」


「……翔くんの顔を」


「なんだよそれ」


苛立ったようにそう言った彼は握った私の手を強く引きよせた。


その拍子に後ろによろけて彼の胸にもたれかかった。


大好きな香りにふわりとつつまれると全身の力が抜けていくみたい。


背中に彼のぬくもりを感じて、胸がドキドキと騒ぎだした。
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