今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
「お兄ちゃんはそろそろ社交界で紹介されるって聞いたし。お父様は一日も早く戻ってきてもらいたいってしょっちゅう話してるのよ」


社交会って?庶民の私には明らかに別世界の話だから想像もつかない。


「で、でも」


「だって家を継ぐってそういうことでしょ。お兄ちゃんも早くお父様の仕事を手伝いたいって言ってるわ」


「……」


「だから、お兄ちゃんがうちへ引っ越してくる日も近いはずよ」


それから愛華さんは調子に乗ったみたいにペラペラしゃべり始めたけど、ショックが大きくて私の耳には素通りしていった。


うそだ、そんなの。


そんなはずないよ。


翔くんがすぐにでもうちを出て行って伊集院家へ行ってしまうなんてこと。


翔くんはいつまでも瀬戸家の長男としてずっと一緒に暮らすんだって思ってた。


だけど、どうしてそんなことが言いきれるんだろう。


それは勝手にそう思っていただけ。
< 261 / 443 >

この作品をシェア

pagetop