今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
エレベーター前まで歩いて行くと、ふと見覚えがあるような気がした。


深い緑色の古いエレベーターの扉。


これに乗って上がるとワクワクしていたような気がする。


凄く楽しい場所へ連れて行ってくれるから。


「あ……ここって」


頭の奥深くから記憶が蘇ってくるような不思議な感覚。


「翔くんここは」


「乗ろう」


その時エレベーターの扉が音を立てて開いた。


「あ、でも待って」


どうしてだかわからないけど、このまま屋上に上がるのをためらってしまった。


「乗らないとダメ?」


「大丈夫だよ、俺も一緒だから。行こう」


翔くんが優しくそう言うから小さく頷いて、エレベーターに足を踏み入れた。


一緒にいるのが彼だから、なぜだか安心出来た。


兄が隣にいてくれるなら、大丈夫って思えた。


しばらくしてエレベーターが屋上へ到着した。


コクっと息を呑んで緊張しながら外へ出た。
< 279 / 443 >

この作品をシェア

pagetop