今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
私の1番お気に入りの場所だった。
きっとそこへ行けば、懐かしい母の記憶をもっと感じられるような気がする。


「チー、待てって。そっちは……」


翔くんが焦ったような声をあげる。


「ポンちゃんがいるはず」


「ぬいぐるみ?」


「ううん、違うよ」


「あ、いや、それは……」


彼が一瞬躊躇した意味がすぐにわかった。


「あれ、うそ、どうして」


かつてあったガラス張りの大きなケージはどこにもなかったし、レッサーパンダもいなかった。


動物園の1番奥は空きスペースになっていて閑散としていた。


「あ……そか、もういないんだ」


懐かしい気持ちで興奮していたけれど、レッサーパンダがいなくて少し寂しい気持ちになった。


でも仕方がない、そこにあったものがいつまでも変わらずにあるとは限らない。


そこにいた大切な人が今はもういないように。


年月が確実に過ぎているんだから。
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