今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
臆病な私はただ震えながら、二人のやり取りを聞いていた。


父が何かを感づいたような気がして……。



「……そうか。あそこは閉園になるらしいからそろそろいってあげないといけなかったからな。
お兄ちゃんが連れて行ってくれてよかったよ」


だけど、どこか寂しそうな父の表情を見ると複雑な気持ちになった。


「……」


「ありがとう」


父は俯いた翔くんの肩を慰めるようにポンポンと叩いた。


父はあの遊園地が閉園になることを知っていたみたいだ。


普段は亡くなったママの話をあんまりしない父だけど、やっぱり忘れたことなんてなかったのかもしれない。


「なあ千桜……ママは……」


父は私の方へ向って何か言おうとしたけれどすぐに言葉を呑み込んでしまった。


「えっ」


「いやなんでもない」


「なに?ママのこと?言って」


父は小さく息を吐いて悲しそうな目で私を見つめながらこう言った。


「ママの分まで千桜には幸せになって欲しいんだ」


「う、うん」
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