今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
「お兄ちゃん帰ってたの?」


疲れたように眠っている彼に声をかけた。


「お兄ちゃん、こんなとこで寝ちゃダメだよ。ちゃんと部屋のベッドにいこう」


実はあの日以来、名前で呼ぶのはやめてお兄ちゃんって呼んでいる。


いつどこで誰が見ているかわからない。


両親の手前、そう呼んでいる方が私も安心だったから。


「ん……矢代さん?」


一瞬目を開けてぼんやり私を見つめる彼。


どうやら私と矢代さんを間違えているみたい。


彼はここ最近一日中矢代さんと一緒にいるから、そんな勘違いしちゃったのかな。


自分の存在が薄くなっているような気がして悲しかった。


「違うよ、千桜だよ。矢代さんじゃないよ」


夏休みに入って2週間近く経つけど、私は全然かまってもらえない。


勉強とはいえ矢代さんに翔くんをとられちゃったみたいな気分で嫉妬してしまいそう。


そんな風に思うなんてほんとに馬鹿みたいだ私。


「矢代さん、俺もうそろそろ父の仕事を手伝えますか?」


まだしっかり目が覚めていないみたいで私のことを矢代さんだと思ってる。


にしても、どうしてそんなに父親の仕事を手伝いたいのかな。


だってまだ高校生なのに。
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