今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
だから気がつかないと思ってる。


翔くんが嘘をつくときの顔はちゃんとわかるのに。


ずっと近くで見ていたから。


嘘をつくときの笑顔は眉間にかすかに皺がよるんだ。


ほんの小さな違和感でそのことに気が付いたけど、もうそれ以上は何も言えなかった。


彼がこうと決めたことを決して途中で投げ出す人ではないことも私は知っていたから。


だから今は、騙されたフリをした。


彼が私を好きって気持ちだけは変わっていないと思ったから。


「離れないよ」


「え?」


「こんな風にギュッーてしてる、逃げられないように」


強く抱きついて冗談ぽく言って笑った。


離さない、離したくないよ。


「おいおい、ドキッとさせるなよ」


照れくさそうに笑う彼の頬がサッと赤くなる。


「逃げるわけないだろ、こんなに好きなのに」

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