今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
思わず、ドアの前で固唾を飲んで会話に耳をすませた。


こんなに朝早くに2人きりで話しているってことは、私や母に聞かれたく無い内容なのかもしれない。


もしかしたら……。


瞬時に嫌な予感がした。


「じゃあどうしても、気持ちは変わらないのかい?」


「はい」


「だけど、出て行くことは無いじゃないか。お母さんが聞いたらどんなに悲しむか」


「でも、もう決めたことだから」


低いトーンで淡々と話す兄の声からは、固い意思を感じた。


会話はそこで途切れてしまいシンと静かになった。


ドア越しだから、2人の表情まではわからないのがもどかしい。


思った以上に深刻な話し合いをしている様子で驚いていた。


声がでそうになったけど、必死に我慢する。


再び沈黙を破ったのは父の声。


「翔……もう一度聞くよ……その……」


しどろもどろの父はひどく動揺している。
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