今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
「私のことで?」


「うん、あっでもここじゃあちょっと」


バレー部の人達が荷物を受け取るためにまだバスの周りにたくさんいる。


こんなところで、石野くんの話をして誰かに聞かれでもしたら大変。


そう思ったんだけど。


「あ、石野。久しぶりっ」


歌ちゃんが明るい声で言ってニコッと笑ったので驚いた。


彼女の目線の先は私の後ろだったのですぐに振り返る。


見れば、確かに旅館の玄関から石野くんが出てくるところで。


彼はこっちを見て気まずそうにその場で固まっている。


「石野、おーい石野なにやってるのよ。こっちこっち」


歌ちゃんは全然気にすることなく嬉しそうに呼びかけた。


だけど、石野くんは黙ったまま俯いて男子バレー部の集団の方へ走って行ってしまった。


あ……今、完全に歌ちゃんのことを無視した。


「え……」


彼女の顔から突然、笑顔が消えてしまう。


「なによあいつ」
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