今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
「矢代さん、車の送迎なんて必要ないって言いましたよね。それと坊ちゃんはやめてください」

 
兄はあからさまに迷惑そうな顔をする。


「何をおっしゃいますか、坊ちゃん。伊集院家の跡取りが徒歩で登校など考えられませんよ」


「いえ、ほんとに結構ですから。だから坊ちゃんはやめてください」


兄はそう呼ばれるのがあまり好きではないみたい。


ちょっとイラっとしながら断るけれど、矢代さんはにっこり笑っている。


「ですがそれでは、私が旦那様からお叱りを受けます。坊ちゃんどうかお聞き入れください」


「……」


どちらも譲らない雰囲気だったので、兄の腕をクイクイ引っ張った。


「ねえ翔くん、せっかくわざわざ来てくれたんだから送ってもらったら?」
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