【完】王子様系男子の哉斗くんは、毎日会いに来る。
車に乗り込んで、家から会場のホテルまで三十分かかる。今は夕方だから茜色に染まる景色がとても綺麗で、緊張して心臓バクバクしていたのが癒される。
『美央、大丈夫か? 緊張するよな、最初は』
お兄ちゃんはそう言って和ませるように色々な話をしてくれる。
手話だから手が疲れるだろうに会場までは、自分の初めてパーティーに行った時は緊張し過ぎて飲み物をたくさん飲み過ぎてトイレばっかり言ってしまったとか、あいさつが終わってすぐに安心して用意されていた食事を片っ端から食べ尽くしてお父さんに怒られてしまったこととかを面白おかしく話をしてくれた。
『もうすぐホテルに着く。もう哉斗いるって、エントランスにいるらしい。エスコートはここまでかな』
『そうなの?』
『あぁ。美央と哉斗の婚約発表なんだから二人でいた方がいいんだ。美央、哉斗から離れるなよ。もし何かあれば俺でもいいから呼んで』
そう言われて私は頷く。初めての場所でもあるし、そうするつもりだ。
エントランス前で車が止まり、運転手がドアを開けてくれてお父さんが降りて車内にいるお母さんに手を差し出す。お母さんはその手を取り降りた。その後にお兄ちゃんも降りて、私が降りようとした時いつ来たのか哉斗くんが手を差しだした。
哉斗くんの手を取り私が降りると『美央、可愛いね』と手話で言った。だから私も『ありがとう』と言うと彼は微笑んでくれて私たちは会場の中に入った。