【完】王子様系男子の哉斗くんは、毎日会いに来る。



 挨拶巡りが終わると、海斗くんがこちらに寄ってきた。


『美央ちゃん、哉斗。お疲れ様』

『海斗くん。こちらこそありがとう』


 私はそう手話で伝えると海斗くんはいつものように優しく微笑んでくれる。だけど学校での茶化すような感じではない、政治家の息子なんだとわかるくらい品があった。


『俺、飲み物とって来るよ』


 海斗くんはそう言ってウェイターさんのところに行ってしまった。私と哉斗くんは海斗くんを待っていた。


「あの、すみません。倉橋哉斗さん、話がしたいのですが……」


 三十代くらいの男性が哉斗くんに話しかけてきたが、私には用事がないのかこちらを見ることもない。
 きっと、大事な話なんだなぁと思って私は哉斗くんに『行って来て』と伝わるように手を離した。きっとすぐ、海斗くんも帰ってくるんだから大丈夫だ。


『……分かった、少しだけ行ってくるから待ってて』


 哉斗くんは手話で言うとその男性とどこかに行ってしまい、壁の花になっていようと思い近くの壁に向かった。一人になって、今まで感じなかった目線に怖さを感じる。
 きっと聞こえる声で言ってるんだろうが私には聞こえなくて、それがまた不安を煽って近くにいてと言われたのに関わらず私は会場から出てお手洗いに向かった。

 お手洗いの個室に入り深呼吸をしてから出ると目の前に同い年くらいの女の子が現れた。確か、葛木(かつらぎ)百貨店の……娘さんだ。


「あなた、どうやって哉斗さんを落としたわけ!?」


 すごい血相で、早口で言って彼女に私は壁に押され壁にぶつかると逃げ道を塞がれてしまった。





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