お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
この場から逃げようとすれば、パシッと手首をつかまれて。
彼はすぐ近くの部屋──碧の部屋の襖を開けると、わたしの手を強く引いて部屋の中へといれる。
抵抗しようとしたところで襖は閉められ、わたしは肩を強くおされ……後ろへと体が倒れたけど、柔らかいところに倒れたから痛みはなかった。
倒れたのは、ベッドの上。
次に瞬きした頃には、彼との距離は数センチ。
わたしの上に、彼は覆いかぶさっていたのだった。
な、何が起きて?
急なことに頭が追いつかない。
「意地悪ばっかりするのはどっちですか」
近くでする彼の声。
まっすぐに目を見つめられて、逸らすことができない。
「俺に隠し事して、無視して、近づくなって言った男にわざわざ近づいて……仲良いところを見せつけているのはだれですか。
意地悪ばっかりするのはお嬢のほうじゃないですか」
そう言った彼の表情は、怒っているように見えるけど……どこか、悲しそうにも見える。
わたしは、碧を傷つけていたのだろうか。