お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。


「あのクソ猿がお嬢にふざけたことをしてきた日、いたじゃないですか。お嬢の目の前に、今の女性が」


彼は説明してくれて。
わたしは……そこでやっと、わかった。


いた。
確かにいたよ、あの先輩。
健くんに廊下で頬にキスをされて、それを見ていたのが5人の先輩で。今の先輩はそのうちの1人だった。


思い出すのは、あの時のあの冷たい視線。
思い出すと恐ろしい。


わたしはあの時健くんに利用されただけだけど、きっと……というか絶対、今の先輩はわたしと健くんの仲を誤解していたんだ。


健くん、コミュニケーション能力が高くて人気者だからすごくモテるだろう。
きっとさっきの先輩も、健くんのことを……。


「思い出しただけでもムカつきますね……。お嬢、ほっぺにキスさせてください。俺の餅ほっぺに」


急に近づいてくる、整った顔。
わたしは慌てて両手で盾をつくってガード。


こ、こんな廊下でキスする気なのか、碧は……!
幸い今は教室棟にいないから目立つことはないけど、学校内だからだれに見られてもおかしくないのに……!


「この手、邪魔です」
「こ、こんなところでなにしようとしてるの……!離れて……っ!」


手で碧を押し返すけど、彼は強引に近づいてきて。


「図書室!図書室に早く行かないと……っ!」


必死に言えば、ピタリととまる彼。

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