お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
……りこ、かおり、さん?
“りこ”って苗字!?
耳に届いた声に、びっくり。
て、てっきり名前かと……!
じゃあ、碧はこの子のことを名前で呼んでたわけじゃなかったんだ……っ!
心には安心感が広がっていく。
「こちらこそよろしくお願いします」
心に少し余裕がでにたわたしは笑顔で返して。
碧に仕事を教えてもらい、お手伝い開始。
数冊本を手に取り、本の背に貼られたラベルを見て、同じ番号が書かれた本がある棚へと戻していく。
それにしても、“里古”って珍しい苗字だなぁ。
名前みたいな可愛い苗字。
里古さんは、笑顔が可愛くて性格も穏やかそうで、とってもいい人そう。
わたしも仲良くなれたらいいな。
そんなことを思いながら作業を続けていれば。
ふと目に入った、碧と里古さん。
2人は短い会話をすると、碧はすぐに作業に戻って。
里古さんは、碧が去ったあとでもその背中を見つめていた。
キラキラとした瞳、少し赤く染まった頬。
その姿を見て、心臓がまた嫌な音を立てた。
わたしは、すぐに里古さんから目を逸らして、作業をしているフリ。
……絶対とは言えない。
絶対とは言えないけど……。
里古さんは、碧のことが好きかもしれない。
今の表情を見て、そう思わずにはいられない。
そのあとは、作業にぜんぜん集中できなかった。